騎士団長の一途な愛は十年目もすれ違う


 王都の外れにある士官学校の医務室にて。
 保健医のチェルシーは騎士志望の男子生徒の包帯を巻いていた。
 チェルシーはきっちりとまとめた金髪の髪から真面目さが伺えるすっきりした顔立ちの女性だ。白衣の下には白いシャツ。どれも皺ひとつなく、背筋の良い彼女に会う。

「先生、今日こそデートしようよ」

 腕に包帯を巻いてもらいながら、男子生徒は自信ありげに微笑んだ。成績もよく容姿が整った彼は、同世代の女生徒を攻略し終えて、大人の女性にもちょっかいをかけてみたくなったらしい。
 
「十年経っても私のことを好きでい続けてくれたらね」
「もちろん好きだよ。十年後と言わず、すぐにでも」
「はい、出来たよ」


 チェルシーは包帯をカットすると、さっさと席から立ち上がる。ちょうど包帯が切れたから補充しようと棚に向かうのだが、男子生徒は後をついてきてチェルシーににじみ寄る。
 薬品棚と男子生徒に囲まれた格好になったチェルシーは眉を寄せた。

「俺、本気だよ」
「君、彼女百人チャレンジしてるんでしょ?」
「たくさんの子を可愛いって思うだけ。別に股がけしてるわけじゃないんだよ」
「私のことをずっと一途に好きでいてくれる人がいいなあ。十年後にやり直しで」

 彼はチェルシーの言葉など聞き入れずさらに一歩踏み寄る。完全に逃げ場を失ったチェルシーの顎を男子生徒が掴む。

(青いな~)
 自信満々で余裕たっぷりな表情な彼を見て、チェルシーは逆に可愛く思えてしまう。
 しかしどう逃げようか……。チェルシーは彼の手を払いのけようとして……先に男子生徒の手を掴んだ者がいた。太くて傷だらけのその手は――。

「おい」

 低い声の主はクレイグだった。彼が背後に立つだけで二人は影に覆われ、生徒は顔を青ざめた。
< 2 / 19 >

この作品をシェア

pagetop