騎士団長の一途な愛は十年目もすれ違う
「あなたが本気だと思えませんから」
「どうやったら信じてくれるの?」
「十年後も好きでいてくれたら」
「何それ。そのときにプロポーズしろってこと?」
「そうですね。あなたは貴族ですし、私と結婚することなどありえないとは思いますが」
軽口でごまかしても、彼はじりじりとチェルシーに近づいてくる。ついに本棚まで追い詰められた。
この男は下位とはいえ貴族で婚約者もいたはずだ。それなのに、こうして顔を近づけてくるのだから男というのは最悪だ。
チェルシーがそう思ったところで、彼の顔がグイッと離れていった。
「嫌がっているのではないか?」
男子生徒の頭を掴んだクレイグがそこにいて、男子生徒はバツが悪そうに肩を縮めすぐにその場を去って行った。
「ありがとう……。見ていたならもっと早く助けてくれてもいいのに」
「すまない。同意があるのかわからなかった。話の流れから嫌がっているとわかったが……」
「まさか、あるわけないわよ」
「そうか」
クレイグはチェルシーが怖い思いをしたと思ったのかもしれない。珍しく柔らかく微笑んでくれた。
その時にチェルシーは気づいたのだ。あの男が嫌だったのではなく、近くにいるのはクレイグしか嫌なのだと。
「少し震えているな」
「本当だ」
チェルシーは気づいていなかったが指先が少し震えていた。時々からかわれることもあるが、ここまで詰め寄られたのは初めてだった。
「すまない。俺が約束に遅れたせいだ」
「大丈夫よ」
「このようなことがないように……俺がずっと隣で守る」
「あはは、大げさね」
真面目な顔で謝るクレイグにチェルシーは笑った。この男のやたら真面目で責任感が強いところが好きなのだ。
「ありがとう、じゃあこれからよろしくね」
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