騎士団長の一途な愛は十年目もすれ違う
「噂をすればクレイグ。久しぶり」
「ああ。久しぶり。噂とは……」
「なんでもないの! 今日も回復薬でしょ、待っててね」

 チェルシーは言葉を遮るように席を立ち、薬品棚に向かう。
 友人が椅子を引いて「まあここに座りなさいよ」とクレイグを誘導している。

「ありがとう」
「今ね、私たち結婚の話をしてたのよ」
 
 友人がまた余計なことを言い始めてチェルシーはこっそり睨んだが、友人は気にせずに続ける。

「チェルシーが親にせっつかれてるみたいでね、早く結婚しなさいって」
「そうなのか」

 クレイグは目を見開き驚いた顔をすると、チェルシーの方をくるりと向き

「チェルシーは結婚、したいのか?」と真剣な表情で訊ねた。

「まあ……そりゃあ、もう二十五だからね」
 
 チェルシーは曖昧に笑いながらクレイグに瓶を手渡す。彼に直接問われると胸が痛い。

「そんな素振りを見せなかったが」
「そりゃあクレイグはいつもさっさと帰るからよ。それに周りが皆結婚して、親に言われたらチェルシーだって結婚を考えるわよ」
「そうだったのか……」

 クレイグはぽつりと呟いてから、瓶に口をつける。
 チェルシーは慌てて友人を引っ張り、彼から離れると

「ちょっとやめてよ!」と小さく叱る。
「ふふ、なくなって初めて気づくものってあるでしょ。チェルシーが結婚って聞いたら、本当の愛に気づくかもしれないでしょ!」

 友人はニヤニヤと笑うからどうしようもない。チェルシーはもう面倒になってきて彼女を解放した。
 無言で薬を飲んでいるクレイグの元に戻った友人は、

「クレイグはどう思う? チェルシーの結婚」
「……そうだな。本人がそう決めたのなら、早くてもいいな」

 クレイグが真面目に頷くのを見て、友人のにやけた唇が固まる。 
 チェルシーの心も冷めていく。そりゃそうだ、クレイグは恋人がいる。休みのたびに会いに行く大切な恋人なのだ。

(私のことは友人として好いていてくれてるとは思う。恋人に会う前に立ち寄ってくれる旧知の仲だ。
 でも友人が結婚するからといって、今さら想いに気づくなんて、恋愛小説くらいしかありえない)

「クレイグは、どうなの……結婚とか」

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