騎士団長の一途な愛は十年目もすれ違う
 もうすっぱり諦めたい。そう思ったチェルシーは、クレイグの瓶を受け取りながら訊ねてみる。
 クレイグは一瞬困惑しつつも、表情を固めると

「そう、だな……。チェルシーが急いでいるなら……俺も急ごう」
「急ごうって……張り合わなくても」
「そういうわけではない」

(学生時代ペアだったからといって、張り合わなくてもいいのに)
 
 チェルシーは唇をきつく噛み締める。
 自分で聞いたくせに、いざクレイグが結婚すると思うと胸が痛くて仕方なかった。

「ご馳走様、ありがとう、また来る」

 そう言うとクレイグは急いたように立ち上がり、すぐに部屋を出て行ってしまった。

「あー……えっと、チェルシーごめんね……」

 友人が眉を下げて、心底申し訳ない表情をしている。

「ううん、いいの。むしろこれでよかった。紹介してもらっても結局なかなか踏み切れなかったし。クレイグが結婚してくれるならこれでさっぱり諦められるわ」
「うん……」
「その代わり、やけ酒には付き合ってね」
「わかった。何杯でもおごらせてもらうわ」
「よろしく。じゃあ、ここもう閉めるから……」

 一人になりたかったチェルシーの意図に気づいた友人はすぐに部屋を出て行ってくれた。
 チェルシーは瓶を洗い始める。
 何度ここでこうして、瓶を洗ったのだろう。この恋心を早く洗い流してほしいと思って。

「あっ、」

 つるりと滑った瓶がぱりんと割れた。

 *

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