秘密の恋〜その相手は担任の先生!〜
湧き上がる不安
―――
あれから更に五日経った。つまり、長いと思っていた夏期補習も今日で最終日。
『やっと終わったぁ~!』と喜んでる周りのクラスメイトを横目に、私と桜はため息を吐いた。
あの日、計らずも藤堂先生の失恋現場に居合わせてしまった日から、桜はずっと元気がない。
それはそうだろう。大好きな人が傷つくところを目の前で見てしまったのだから。
明るく振る舞う先生の代わりに静かに泣く桜と、そんな桜を困ったように見つめる先生が目に焼きついて、私もいつもの元気が出なかった。
「千尋……ごめんね。」
「え?何で謝るの?」
「だって折角高崎先生に近づくチャンスだったのに、こんな事になっちゃって……」
「そんな……桜のせいじゃないでしょ?」
「でも……」
小柄な体をますます小さくする桜。私は殊更明るい声を出した。
「何はともあれ補習も無事終わって良かったじゃない。お手伝いとしてお役目も果たしたし。」
そう言うと、やっと笑顔が戻る。うん、やっぱり桜には笑顔が一番似合う。
まぁ桜の言う通り高崎先生と話すチャンスがなかったのは残念だけど、今は桜の方が大事だもん。
「帰ろっか。職員室寄る?」
「……寄る。」
一瞬考える素振りを見せたが、小さい声で肯定する。私達は同時に教室を出た。
いつの間にかクラスメイト達はいなくなっていて、廊下に出ると他のクラスの子達もいないようだった。さっきまでの騒然とした空気が嘘のように学校中が静まり返っていた。
「この分だと先生達も何人か帰ってるかもね。」
若干諦めモードの桜に頷く。確かに補習最終日の挨拶はもう終わったし、職員室には数人しかいないだろう。最後に高崎先生に会いたかったけどいないかも知れない。
「失礼しまーす……あ、藤堂先生……」
職員室を覗くと藤堂先生と、あと数人の先生しか残っていなかった。私は桜の様子を窺いながら先生に話しかける。
「藤堂先生。高崎先生はいますか?」
「あー……高崎先生ならさっき帰ったぞ。何か急に用事できたからって慌てて行っちまった。」
「そうですか……」
「あ、そうだ!千尋、ちょっと頼まれてくれないか?」
「何ですか?」
「急いで帰ったからか携帯忘れて行ったみたいなんだ。これなんだけど。」
一旦職員室の中に戻ると、高崎先生の机の上から携帯電話を持ってくる。そしてそれを私に渡してきた。
「え?」
「確かお前の家から近かったよな。届けてやってくれないか。」
「な、何で私が!」
思わず飛び上がる。藤堂先生は苦笑いしながら私を見た。
「俺の家は反対方向だしさ。だから、な?」
(何が『だから、な?』よ!!)
心で叫びながら藤堂先生を睨む。そこには苦笑いからニヤニヤした笑顔に変わった先生がいた。
「先生……もしかして?」
「え?何、桜?」
桜がハッとした顔をして私と藤堂先生を交互に見る。藤堂先生は笑みを更に濃くして頷いた。
「あらら……バレちゃってるよ、千尋。」
「千尋、お前わかりやすいから。」
妙に息の合った二人から意味深な言葉を投げられて、ようやく気づいた。途端、顔が赤くなる。
「ま、まさか……」
「うん。そのまさか。」
あっさり認めた先生に脱力する。どうしよう…高崎先生が好きだって事、藤堂先生にバレてしまった。
風見千尋、一生の不覚……
「まぁまぁ。いい事じゃないか。傷心中の身の上にしてみれば明るい話題は大歓迎だ。うんうん、青春だなぁ~」
心底羨ましいといった感じで先生が言う。無理してるようには見えない様子に桜がホッとした顔をしたのが目に入って、その事に私もホッとする。
「じゃあ頼んだぞ、千尋。……桜も気をつけて帰れよ。」
「はーい……」
「はい。先生さよなら。」
いまだに脱力する私を他所に桜が普通に挨拶する。藤堂先生は一瞬桜の方を見て複雑な顔をしたけど、すぐにいつものチャラい態度に戻って言った。
「じゃあ始業式で会おうぜ。夏休みを謳歌するんだぞ、学生!」
いきなり家に行くのも悪いかなと思い、私は自分のスマホで先生の自宅に電話をかけた。
『はい、高崎です。』
「え……?」
『もしもし?どちら様ですか?』
「…………」
『もしもし……?』
ガチャンッ!思わず電話を切っちゃった……無言電話なんて失礼だと思ったけど、でも……
「ビックリした……何で女の人が出るのよ……」
信じられなかった。だって先生の家に女の人が……
「考えるのやめよう!明日直接先生に聞けばいいんだから……」
今日は行きづらかったのでとりあえず明日行く事にする。
いつも歩く帰り道が何故か知らない道のように見えて不安になった……
あれから更に五日経った。つまり、長いと思っていた夏期補習も今日で最終日。
『やっと終わったぁ~!』と喜んでる周りのクラスメイトを横目に、私と桜はため息を吐いた。
あの日、計らずも藤堂先生の失恋現場に居合わせてしまった日から、桜はずっと元気がない。
それはそうだろう。大好きな人が傷つくところを目の前で見てしまったのだから。
明るく振る舞う先生の代わりに静かに泣く桜と、そんな桜を困ったように見つめる先生が目に焼きついて、私もいつもの元気が出なかった。
「千尋……ごめんね。」
「え?何で謝るの?」
「だって折角高崎先生に近づくチャンスだったのに、こんな事になっちゃって……」
「そんな……桜のせいじゃないでしょ?」
「でも……」
小柄な体をますます小さくする桜。私は殊更明るい声を出した。
「何はともあれ補習も無事終わって良かったじゃない。お手伝いとしてお役目も果たしたし。」
そう言うと、やっと笑顔が戻る。うん、やっぱり桜には笑顔が一番似合う。
まぁ桜の言う通り高崎先生と話すチャンスがなかったのは残念だけど、今は桜の方が大事だもん。
「帰ろっか。職員室寄る?」
「……寄る。」
一瞬考える素振りを見せたが、小さい声で肯定する。私達は同時に教室を出た。
いつの間にかクラスメイト達はいなくなっていて、廊下に出ると他のクラスの子達もいないようだった。さっきまでの騒然とした空気が嘘のように学校中が静まり返っていた。
「この分だと先生達も何人か帰ってるかもね。」
若干諦めモードの桜に頷く。確かに補習最終日の挨拶はもう終わったし、職員室には数人しかいないだろう。最後に高崎先生に会いたかったけどいないかも知れない。
「失礼しまーす……あ、藤堂先生……」
職員室を覗くと藤堂先生と、あと数人の先生しか残っていなかった。私は桜の様子を窺いながら先生に話しかける。
「藤堂先生。高崎先生はいますか?」
「あー……高崎先生ならさっき帰ったぞ。何か急に用事できたからって慌てて行っちまった。」
「そうですか……」
「あ、そうだ!千尋、ちょっと頼まれてくれないか?」
「何ですか?」
「急いで帰ったからか携帯忘れて行ったみたいなんだ。これなんだけど。」
一旦職員室の中に戻ると、高崎先生の机の上から携帯電話を持ってくる。そしてそれを私に渡してきた。
「え?」
「確かお前の家から近かったよな。届けてやってくれないか。」
「な、何で私が!」
思わず飛び上がる。藤堂先生は苦笑いしながら私を見た。
「俺の家は反対方向だしさ。だから、な?」
(何が『だから、な?』よ!!)
心で叫びながら藤堂先生を睨む。そこには苦笑いからニヤニヤした笑顔に変わった先生がいた。
「先生……もしかして?」
「え?何、桜?」
桜がハッとした顔をして私と藤堂先生を交互に見る。藤堂先生は笑みを更に濃くして頷いた。
「あらら……バレちゃってるよ、千尋。」
「千尋、お前わかりやすいから。」
妙に息の合った二人から意味深な言葉を投げられて、ようやく気づいた。途端、顔が赤くなる。
「ま、まさか……」
「うん。そのまさか。」
あっさり認めた先生に脱力する。どうしよう…高崎先生が好きだって事、藤堂先生にバレてしまった。
風見千尋、一生の不覚……
「まぁまぁ。いい事じゃないか。傷心中の身の上にしてみれば明るい話題は大歓迎だ。うんうん、青春だなぁ~」
心底羨ましいといった感じで先生が言う。無理してるようには見えない様子に桜がホッとした顔をしたのが目に入って、その事に私もホッとする。
「じゃあ頼んだぞ、千尋。……桜も気をつけて帰れよ。」
「はーい……」
「はい。先生さよなら。」
いまだに脱力する私を他所に桜が普通に挨拶する。藤堂先生は一瞬桜の方を見て複雑な顔をしたけど、すぐにいつものチャラい態度に戻って言った。
「じゃあ始業式で会おうぜ。夏休みを謳歌するんだぞ、学生!」
いきなり家に行くのも悪いかなと思い、私は自分のスマホで先生の自宅に電話をかけた。
『はい、高崎です。』
「え……?」
『もしもし?どちら様ですか?』
「…………」
『もしもし……?』
ガチャンッ!思わず電話を切っちゃった……無言電話なんて失礼だと思ったけど、でも……
「ビックリした……何で女の人が出るのよ……」
信じられなかった。だって先生の家に女の人が……
「考えるのやめよう!明日直接先生に聞けばいいんだから……」
今日は行きづらかったのでとりあえず明日行く事にする。
いつも歩く帰り道が何故か知らない道のように見えて不安になった……