秘密の恋〜その相手は担任の先生!〜

先生の彼女!?


「…………」
 次の日、私は高崎先生の自宅の前にいた。もちろん先生の携帯を届けにだ。
 家を出る時にもう一度電話をかけようかとも思ったけど、何となく気が引けて何もアポもないまま突然来てしまったのだ。
「……よし!」
 インターフォンを睨んでても埒があかない。私は思いきってそれを力いっぱい押した。
『ピンポーン』
 ドキドキしながら待つ。すると微かに物音がして、ドアが開いた。
「はーい。あれ、風見さん?」
「あ、先生……」
「どうしたんですか?」
 昨日まで毎日会っていたはずなのに何だか久しぶりに先生の顔を見た気がした。

「あ、あのこれ……藤堂先生に頼まれて。」
 持っていた先生の携帯を差し出す。
「あ、僕忘れてきたんですね。ありがとうございます。わざわざ。」
「いえ。あのー……」
「はい?」
「つかぬ事をお聞きしますが、昨日誰か先生のお家にいました?」
「昨日?」
「昨日の夕方、自宅に電話したんです。一応私が届けに行く事を連絡しようと思って。そしたら女の人が……」
「え?あの人と話したんですか……」
 突然眉間に皺を寄せる先生。い、いけなかったのかな?忘れ物を届けるだけのつもりだったけど、プライベートな事に首突っ込んだりして……
 やっぱり藤堂先生が届けるべきだったんだよ!生徒に任せるからこんな事に……

「風見さん?」
「……え?あ、はい?」
「大丈夫ですか?何かボーッとしてましたが。」
「い、いえ大丈夫です。あの…あの……」
「はい?」
 聞きたい!知りたい!あの人は先生の何なのかを!でも……
「あの…その女の人、先生とどんな関係なんですか!」
 あー……聞いちゃった……
 自己嫌悪に陥りながら俯く。頭の上から先生の、まるで諦めたようなため息が聞こえた。
「えっと実は……」
 お母さん?お姉さん?それともまさか…か、かのっ……
「……僕の兄です。」
「へぇ~……お兄さんね。」
 しばらくの沈黙。そして……

「え……ええぇぇぇーー!!」
「だから言いたくなかったんです……」
「でででででも!」
「どうしたんですか?」
「だって、女の人みたいに綺麗な声で……まぁでも、言われてみたらちょっと低かった、のかな……?」
 軽くパニック状態の私を苦笑いしながら見て、先生は言った。
「兄は元々声が高いんです。一応声変わりはしたけど、ちょっと声色を作れば確かに女性みたいな声になりますね。電話だったら尚更。」
「へ、へぇ~~……」
「中性的な顔立ちから小さい時から同性にモテまして、僕が気づいた時にはもう……」
 先生が言い淀む。私は先生が何を言いたいのか何となく、本当に何となくわかったので、それ以上聞かなかった。いや、聞けなかった。

「昨日から遊びに来てたんですよ。僕が買い物に行ってる時に電話に出たんですね、きっと。」
「そ、そうですか。じゃ、じゃあ私はこれで……」
「あ……待って下さい!」
 先生が帰ろうとした私を呼び止める。無言で振り向いた私の目に、焦った顔の先生が映った。
「あの、せっかくだから……」
「ねぇ、さっきから何騒いでるの?近所迷惑じゃない?」
 その時先生の後ろから誰かが顔を覗かせた。
「兄さん。」
『兄さん!』先生の言葉に思わず反応した。失礼だと思いながらじろじろと見てしまう。

 背は長身の先生と比べると小柄だがすらっとしたモデルさんみたいなスタイルで、背筋がしゃんと伸びているから堂々とした佇まいをしている。髪型はショートボムというのだろうか。栗色に染め、シャンプーはきっと良いものを使っているのだと思うほど艶々だ。
 顔は比べてみると一目瞭然で先生と似ている。優しい目元、通った鼻筋、緩く弧を描く輪郭。何も知らないでいたらお姉さんだと勘違いするほど、見た目も雰囲気も女性そのものだった。服は高校生の私でも人目でわかるブランドのもので、それがよく似合っていた。
 本当に男性?って半信半疑の中、胸は……って目をやるとペッタンコだった。
「で、この子は?」
「あぁ、僕の教え子で風見千尋さんです。学校に携帯忘れたのを届けに来てくれたんですよ。」
「あ、初めまして。風見と申します。」
 慌てて頭を下げると、楽しそうな声が降ってきた。
「可愛いわね。ねぇ、ちょっとお話しない?」
「へ?」
「ささ!入って、入って。ほら、拓也。お茶でも出しなさい。もう!気の利かない子ね。」
「あ、ちょっ……兄さん!そんな無理矢理引っ張ったら風見さんが……」
 その時お兄さっ……お姉さんがピタッと立ち止まり、必然的に手を握られていた私も止まる羽目になった。

「何言ってんのよ。あたしは女よ、オ・ン・ナ。今度兄さんなんて呼んだらぶっ殺すわよ!」
「…………」
「………………」
 固まる私とやれやれというように首を振る先生。
「さ!行きましょう!」
 そんな中、嬉々として再び私の手を取ったお兄さっ……お姉さんはそのままリビングへと入っていった。
「あの……」
「なぁーに?」
「ほ、本当にその…あの……」
「あぁ。本当に男なのかって?」
 あっさりとそう言うお兄さっ……お姉さんに無言のまま頷く。するとニヤリと嫌な笑みを浮かべて私の前に立った。
「?」
「なんなら見る?」
「え"!?な…何を……」
「ほらっ♪」
「きっ…きっ……きゃあぁぁぁぁぁ!!」
「兄さん!」
「あら、嫌だ。」
「大丈夫ですか?風見さん!……千尋!」
 私はあまりの事に先生の声も聞こえないほどにショックを受け、気を失った……

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