秘密の恋〜その相手は担任の先生!〜
貴方が貴方らしく
「結局二人とも上手くいったって事ね。」
桜が腕組みしながらうんうん頷く。私は苦笑しながら言った。
「私は卒業してから改めてって感じだけど、桜は付き合ってんでしょ?」
「まーね。でも手繋ぐまでしか許してないよ。」
「へ、へぇ~……藤堂先生お気の毒……」
「あら、そっちの方が高崎先生可哀想……」
「ぷっ……あはははは!!」
二人一斉に笑い出す。教室にいた他の子達が目を丸くした。
「でも千尋、良かったね。」
「ありがと。」
「卒業まで一年とちょっとあるんだから、先生に愛想尽かされないように頑張って女の子らしくしないとね♪」
悪戯っ子のような笑顔。ち、ちくしょう……ムカつくけど可愛いぜ。
「じゃあ桜も一緒に勉強しようよ。」
「えー!私も?」
「うん。桜だって今よりもっと可愛くなって先生を喜ばせたいでしょ?」
「大丈夫だよ。先生はそのままの私がいいって言ってくれてんだもん。」
「……そうですか~」
ただの惚気じゃん!そんな私の心の突っ込みなど知る由のない桜は、遠くを見つめていた。あぁ~…目がハートになってる。
「でも私達はとりあえず一件落着だけど、気がかりなのは雄太君の事だよね……」
「雄太君か……」
私の呟きに桜が妄想から戻ってきた。途端に難しい顔になる。
「そうだね。やっぱり気になるよね。」
「うん……」
雰囲気が暗くなりかけた時、突然声をかけられた。
「よっ!千尋!」
「え?わっ!雄太君!?」
振り返ると今まさに話題にしていた雄太君が立っていた。
「ど、どうしたの?」
「あのさ、須藤いる?」
「え?由美ちゃん?」
思いがけない人物の登場に戸惑いながら教室中を見回す。すると隣から桜が肘で脇腹をつついてきた。
「ねぇ、確か由美ちゃんって入院したんじゃなかった?何か怪我したとかで。」
「あ、そうだ!今日の朝高崎先生が言ってた。どうしたんだろうってみんな心配してたんだ。」
「入院!?」
雄太君の表情が変わる。顔をぐいっと近づけると捲し立ててきた。
「怪我って何で、どうして、どんな状態なんだよ?いつから?どこの病院?退院は?」
「え、えっと……私達も今朝聞いたばかりだからいつから入院したのかはわからないけど、怪我は大した事ないって。怪我した理由は教えてもらってない。退院は……ごめん、わかんない。」
「そ……そっか。」
「病院は大学病院だよ。ほら、区役所の通りにある。」
「よしっ!わかった。サンキュー!」
「あ、雄太君!」
「ん?」
不思議そうに振り向く姿に言葉が続かない。しばらく『あー』だの『うー』だの唸ってると、雄太君が不意に笑った。
「よく見るとお前って面白い顔してんだな。」
「は……?」
「先生に呆れられないように女磨けよ!じゃな!」
「え、待っ……!って行っちゃった……」
サッカー部で鍛えた俊足であっという間にいなくなってしまう。呆気に取られていると桜が言った。
「大丈夫みたいだね。」
「え?」
「千尋の事はまだ完全に吹っ切った訳ではないかも知れないけど、今は他に気になる事があるみたいだね。」
「そういえば由美ちゃんに何か用だったのかな?」
「さあね。」
両の手のひらを上に上げて首を振る桜に私も首を傾げる。
「でも……」
雄太君、笑ってた。もちろん傷つけた事はなかった事にはできないけど、こうして普通にいつも通りに接してくれる事が有り難い。下手したら会話どころか会う事すら拒否されるかもって思ってたから……
今の雄太君の笑顔は付き合ってた時よりずっとキラキラ輝いていたように思う。
別れた時に雄太君が言った、『お前がお前らしくいてくれるだけで嬉しい』という言葉をそっくりそのまま返したいくらいに。
「ありがとう。」
もう何度目かわからない感謝の言葉を口の中で呟いた……