秘密の恋〜その相手は担任の先生!〜

進路について


「そういえばさ~、千尋って進路どうするの?」
「え、何?いきなり……」
「うちらそういう話全然した事ないじゃん?どうなのかなぁって思って。」
 三年生になって二ヶ月くらい経ったある日のお昼休み、桜が急に言い出したのは進路の話だった。
 言われてみたらそういう進路の事とか将来の話とかした事なかった。まぁ、去年はそれどころじゃなかったんだけど(笑)
 でもそろそろ考えなきゃいけない時期だもんね。進路かぁ~……漠然とこうなりたいっていう夢はあるけど。

「何かないの?将来の夢。」
「ん~……笑わない?」
「笑わないよ。何、何?」
 食いついてくる桜に後ずさりしながら小さい声で答えた。
「ほいくし……さん…」
「え?聞こえない。何、何、何?」
「保育士さん!」
「へぇー、千尋が保育士さん?いがい~」
 目を丸くして驚いてる。そんなに意外かな……
「何で?理由は?」
 今日はやけにぐいぐいくるなぁ~と思いながらも口を開いた。
「あのね、幼稚園の時の担任の先生がね、凄く良い先生だったの。優しくて笑顔が素敵で美人さんで、私憧れてた。高崎先生に会うまでその人以上の教師に会った事なかったんだ。」
「さりげなく惚気るね。」
「へへっ、いいじゃん。たまには(笑)それでね、幼稚園を卒園して小学校に入ると当然その先生とは会えなくなっちゃう訳じゃん?」
「当たり前だよね。」
「でもその当たり前がまだ小さかった私には理解できなかった。何で会えないんだろう?どうしていないんだろう?っていつも思ってた。」
「純粋だね。」
 桜が笑う。『そうかな、馬鹿なだけだよ。』と私は苦笑した。

「で、馬鹿なりに考えた。そうだ!自分も幼稚園の先生か保育園の先生になれば、その先生に会えるかも知れないってね。」
「あはは!千尋らしいね。」
「それが小三。その内それが本当になりたい職業になっていって、最近ではちょっと真剣に考えてる。」
「そうなんだ~。じゃあ進学だ。」
「うん。短大志望。」
「そっか、そっか。ちゃんと考えてんだね。」
「桜は?」
「私?私は就職しようかな、と。」
「えぇぇぇーー!!」
 桜の言葉に驚いて思わず立ち上がった。椅子が凄い勢いで後ろに転がっていく。
「何で!?桜の頭だったら結構良い大学行けるのに!」
「だって特に夢とかないし、勉強だって本当はそんなに好きじゃないし。何もやりたい事のない私が入るより本当に入りたい人が入った方が大学側としても喜ぶんじゃない?」
「そ、そう……」
 やっぱり頭の良い人の考え方は良くわからん……

「で?どういう職種を選ぶの?」
「んー、事務系かな。」
「そっか。じゃあこれからは目指す道が違っちゃうのか。何か急に寂しくなっちゃったな。桜と離れるなら卒業したくなくなった……」
「何言ってんの!卒業しないと先生とラブラブできないんだぞ!」
「桜……」
 自信満々に何を言う……
「確か来週に三者面談あるよね。急に進路の話したのってこれを思い出したから?」
「そうそう。千尋にドキドキするの?って聞こうと思って。」
「何で私がドキドキするの?」
「だって千尋のお母さんと高崎先生が会うんでしょ?想像するとドキドキしない?」
「…………」
 一瞬想像してみる。そして……

「ヤバい!ドキドキする!」
「あはは!千尋ってば最高ー!」
「ちょっと!からかわないでよ、もう!」
 腹を抱えて爆笑する桜の頭を軽く小突く。それでも収まらないから不貞腐れる事にした。
 今日は一日無視してやる!……そう決めた。

 これで私達はそれぞれ違う道を歩む為に一歩足を踏み出すけれど、卒業しても何年、何十年経っても親友でいようね、桜――?

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