秘密の恋〜その相手は担任の先生!〜

宣言


 あれから桜は、あんな細い体の何処にそんなパワーがあるんだ!とツッコミたくなるほど、藤堂先生につきまとっている。私はいい加減疲れてきた。言い出しっぺは私だけど……
 授業が終わる度に職員室に直行。
 お昼休みは隣のクラスで藤堂先生とランチ。
 放課後は職員室の前で出待ち(?)
 とまぁ、こんな感じ。

「ねぇ、そろそろ帰らない?もう6時になるよ。今日は先生達会議だから遅くなるよ?」
「ダーメ。先生にさよなら言ってからじゃないと。」
「でもさ……」
「帰りたかったら帰ってもいいよ。私は待ってるから。」
「桜……」
「何やってるんですか?こんな時間まで。」
 ちょうどそこへ高崎先生が登場。怪訝な顔をしながらこちらに近づいてくる。
「あ!高崎先生。会議終わったんですか?」
「はい。今終わりましたよ。」
「よし。千尋行こう!」
「あ、待ってよ~」
「何処に行くんですか?」
「藤堂先生の所です。」
「……そうですか。行ってらっしゃい。」
 小声で呟いて、高崎先生は去って行った。
「どうしたんだろう?」
「千尋、早く!」
「あ、はーい!」
 さっきの先生の態度……気になる。けど今はそんな事気にしてる場合じゃない!桜に怒られるよ~……

「藤堂先生、みーつけた!」
「お!何だ?桜に千尋か。こんな時間まで何してたんだ?」
「さようならを言いに来ました。」
「それだけの理由で今まで待ってたのか?」
「はい!」
「そんな事言われると、先生期待しちゃうぞー」
「いいですよ、期待しても。」
「え……?」
 まさか桜、ここで告るの?先生も珍しく顔赤くしてるし……
 え!ウソ……どうしよう!?
「……なーんちゃってね。先生バイバイ」
「…………」
「え?あ、待って!桜!」
 呆気に取られている藤堂先生を残して桜はスタスタと歩いて行く。私は慌てて後を追った。

「桜……」
「勢いで言おうと思ったけど…言えなかった……」
 桜は泣いていた。
「もう絶対言えない……」
「そんな事ないよ。大丈夫。私がついてる。」
「千尋…うん。私、勇気出す。」
「頑張ろう!」
 桜を力強く抱きしめながら私は言った。



――次の日

 桜は学校を休むと、今朝私のケータイにかけてきた。
 今日は藤堂先生の授業がないけど、気まずいからって理由で。その代わり、私に先生の様子を偵察してこいと言って切った。

「何なのよ、もう!」
 と文句を言いながら職員室に向かってる私って……ホント親友思いの良い奴だわ。
「先生、おはようございます。」
 廊下で藤堂先生を見つけて呼び止める。ペコリと会釈しながらさりげなく昨日の事を聞いてみた。
「昨日の桜の言った事気にしないで下さいね。ただのジョークだから。」
 さぁ、どう反応する?私は内心ニヤニヤしながら先生の言葉を待つ。
「何だ……ジョークだったのか。一晩悩んで損した。」
 小声でそう言うと、肩を落として去って行った。
「一晩悩んだ…?……という事は少なからず桜を気にしてたって事か!」
 一人で勝手に納得して後ろを振り向いた時、廊下の角に人影を見た気がした。
「ん?」
 だけど目を凝らしてみても誰の姿も見えない。
「気のせいか。」
 肩を竦めると教室へと向かった。



「風見さん。」
「わ!……あ、高崎先生か。ビックリした。いきなり後ろから呼ぶから……」
「すみません。驚かせるつもりはなかったんですが。」
 心底申し訳なさそうに言う先生に、慌てて手を振った。
「いや、ボーッとしてたんでこちらこそすみません。で、何の用です?」
「HR委員長として今まで色々とありがとうございました。風見さん優しいからすぐ引き受けてくれて、余計な仕事まで頼んでしまいましたね。すみませんでした。でも本当に助かりました。」
 丁寧に頭を下げる先生。私は照れて顔が赤くなると同時に、ますます焦る。
「いえ、私なんか引き受けたくせに裏で桜に文句言ってる奴なんで、先生がそんな頭下げなくても……。」
「え?文句言ってたんですか?」
「あ……」
 うっかり失言……。頭を上げてジーッと見てくる先生に誤魔化し笑いを返す。
「まぁ、仕方ないですね。僕が次々と仕事を頼んだのが悪いんですし。ねぇ、風見さん。」
「は、はい……」
 ちょっと怒らせたかな…っと後悔していると先生がこう言ってきた。
「嫌ならHR委員長を辞めてもいいですよ。」
「え!」
「そもそも強引に決めてしまったので、風見さんには悪い事したなと反省してるんです。なので……」
「辞めません!」
「風見さん……」
 思わず大声が出た。こちらを見てくる生徒達の事など構わず、私ははっきりと宣言した。

「HR委員長は辞めません!私は何事も最後までやり通します!」

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