あなたくれない
駿翔くんの表情が曇る。
「それってどこで会うの?」
「え? ……雑木林に来てって言われてる」
「雑木林?」
駿翔くんは目を見開いて驚いた顔になり、
「行かないほうがいいよ、やめとけよ」
と、私の顔をまっすぐに見た。
「……でも、琳音と話せる機会だから……、私は行くつもり」
「じゃあ、オレも行く」
「ダメだよ、琳音が怒る」
「でも……」
と、駿翔くんは考え込み、
「……何かあったらオレに連絡して。電話でもメッセージでもいいから」
と、言った。
「なんにも起こらないよ。琳音と会うだけだもん」
と言ったけれど、駿翔くんは真剣な顔のままだった。
バスがやって来て、私達は村に帰った。
バス停を下りると、夏の暑さを含んだ風が、いたずらっこみたいに私の髪の毛を揺らした。
「暑いな」
と、駿翔くん。
私は頷き、
「猛暑って感じだね」
と、手のひらをパタパタして顔をあおいだ。
「こんなに暑いと、手とか繋げないな」
と、冗談っぽく駿翔くんが言った。