あなたくれない

ゾッとするような瞳で。

私をまっすぐに見ている。



「いらない、いらない、いらない……」



繰り返し、呟いている。




そのことが不気味で。

私のおさえこんでいた恐怖心が。

パンッと音を立てて、弾けた気がした。




「う、うわああぁぁっ!!」



意味なく叫びつつ、私は逃げ出した。



(殺される!)



背中を向けて。

めちゃくちゃに走る。

涙が溢れて。

びしょびしょの顔で。



「嫌だっ! 死にたくないっ……!!」



だけど、“くれない様”が逃してくれるわけなんかなくて。

すごい勢いで、私を追いかけて来る。




「死ねっ! 死ねっ!」



“くれない様”が怒っている。

そのドタドタ鳴る足音が。

琳音のそれとは思えなくて。

死の世界へのカウントダウンのように思えた。






ばしっ!



背中に衝撃があった。

洋服を掴まれたんだと気づくのに、一拍くらい遅れた。




「あなた、いらない!! いらない!!」




“くれない様”はそう言いつつ、後ろから私の首を絞めようとする。
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