あなたくれない

私も立ち止まる。

洞窟の前。

琳音が振り返って、
「入るよ」
と、言った。



「えっ」



さすがにそれは、怖い。

だって、この洞窟には……。



「……“くれない様”が目を覚ましちゃうよ」



私の声が震える。

琳音はニッコリ笑って、
「目を覚まさせるんだよ」
と言った。






……古くから言い伝えられていることがある。



この洞窟に祀られている“くれない様”は怒っているから。

“くれない様”を絶対に目覚めさせてはいけないって。



“くれない様”について。

何故そんなに怒っているのか、そもそも“くれない様”とは何なのか。

詳しくは知らないけれど。

“くれない様”をこれ以上怒らせないように、特に村の大人達は気を配っている。



「穂希も“くれない様”を信じてるんだね」



琳音の言葉に、私は「だって怖いよ」と呟く。



「“くれない様”を目覚めさせたり、怒らせちゃダメだって、村のみんなから言われてるじゃない。もしそうなったら何が起こるかわからないし、怖いよ」



妙に早口になってしまう。

焦っていることが、自分でもわかった。
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