あなたくれない
第一章 祠
第一話 誤解
振り向かない。
……ううん、振り向けない。
私、光本 穂希は、走った。
走って。
走って。
逃げた。
悲鳴が聞こえる。
(あぁ、琳音の声だ……!)
アレに、捕まったのかもしれない。
だけど。
私は戻ることなく。
泣きながら、走り続けた。
ーーーその前日。
二学期が始まってすぐの水曜日の放課後。
バスから下りると、バス停の前にある村の自治会館の外壁にセミが一匹とまっていて、鳴き声が耳にうるさい。
「穂希、何見てんの?」
同じバスに乗っていた同級生の川村 駿翔くんが、不思議そうに私を見ている。
「なんでもないよ。暑いなぁって思ってただけ」
「村に帰ってくるとさ、余計に暑いのはなんでなんだろうな?」
「わかんない。でも、すっごく日差しがきつい気がするよね」
「隣町のが涼しいよな」