あなたくれない
私達は恐怖で、返事が出来ない。
「ねぇ」
“くれない様”は真っ黒な瞳を琳音に向けた。
「ひっ!」
と、琳音が後ずさる。
ペタッ、ペタッ。
“くれない様”が琳音に近づいていく。
「わ、私じゃない!! 光本 穂希は、彼女! 私じゃない!!」
そう叫んで、琳音は回れ右をして洞窟の外へ飛び出した。
(ま、待って!!)
私も続けて走り出す。
足の速い琳音に追いつけるわけがなかったけれど。
私達は雑木林を走った。
「待って……」
と、背後から“くれない様”の声が聞こえる。
泣きながら。
必死で琳音の後を追いかける。
「馬鹿っ! ついて来ないでよ!! 私は関係ないんだから!!」
と、琳音が振り返る。
「ふ、二手に分かれたほうが、いいんだから!! あんた、あっち行ってよ!!」
「でも、琳音……!」
「あっち行けよ!!!」
強い口調で言われて、私は走る方向を変えた。