あなたくれない
「灯籠が……」
おばあちゃんの愕然とした声。
「灯籠だけじゃない。シャーペンが折れたし、電気は点滅するし、変な足音も……っ」
「穂希、怪我は!?」
「怪我はしていない」
おばあちゃんは私を支えて立たせ、リビングに連れて行ってくれた。
「お茶でも飲んで、落ち着きなさい」
そう言ってお湯を沸かすおばあちゃんの手が、小刻みに震えていた。
その日の夕食の後。
玄関のインターホンのベルが一度、ピンポーンと鳴った。
「こんな時間に誰かな?」
と、お父さんが立ち上がる。
「須浜さんだったら、穂希はいないと言いなさい」
おばあちゃんが言う。
お父さんが頷き、玄関のドアの前で返事をする。
「どちら様ですか?」
おばあちゃんもお母さんも私も、気になって玄関のそばまでやって来た。
「……どちら様?」
と、もう一度、お父さん。
「誰もいないんじゃない?」
と、お母さんが言って、玄関先の電気を点けた。