あなたくれない
玄関ドアのすりガラス部分から、ドアの向こうが明るくなったことが、家の中からでもわかる。
「……っ!?」
すりガラス部分の向こう。
あるはずの。
人影が。
……ない。
「どういうこと?」
と、お母さん。
「イタズラなんじゃないか?」
と、おばあちゃんが言ったその時。
バンッ! バンッ! バンッ!!
玄関ドアから聞こえてきた。
まるで。
誰かが、ドアを乱暴に叩いたみたいな音。
でも。
玄関の前に。
人影は、ない。
お父さんが玄関ドアを開ける。
「あの、イタズラはよしてくださいっ!!」
そう言って、勢いよく開けたドアの向こう。
遠くに見える曲がり道を、こちらに向かって歩いて来る人影があった。
「……あの人の仕業?」
と、私が言うと、
「いや、遠過ぎるよ。違うと思う」
と、お父さんが答える。
「……何かあったのー?」
のんびりとした口調で、フラフラと歩いて来たその人は言う。