あなたくれない
玄関ドアを閉められないように、米子さんは両手でドアを持った。
「死が近づいているー。だから怖いー。怖いことたくさん、これから怖い思いたくさんー」
「えっ……」
米子さんはニヤニヤ笑っている。
「目覚めさせたー。“くれない様”は逃がしてくれなーい。だけど、“くれない様”のせいじゃないんだよー」
「何を言ってるんだ」
と、おばあちゃんがイライラしている。
「その子の死が近いからー。死霊達が迎えに来ているんだよー。あはっ、あはははっ! “くれない様”のせいじゃないんだー」
「死霊達……?」
思わず聞き返すと、米子さんは嬉しそうに歯を見せて、
「あはっ、あはははっ! 目覚めさせた子は、死んじゃうよー」
と、笑った。
「迎えに来てるんだー。その子を待ってるんだよー」
「いい加減なことを言うんじゃないよ!!」
と、おばあちゃんが怒鳴った。
米子さんは「ひっ」と、小さく悲鳴を漏らし、
「怖いこわいこわい……」
と、玄関ドアから手を離し、背中を丸くした。
「あんた、用事なんかないんだろう? 帰りな!! こっちだって忙しいんだ!!」