あなたくれない
米子さんは私を見て、ニィッと笑った。
「♪帰るよ 帰るよ
夕焼けの終わり……」
米子さんはまた、歌い始めた。
「……? その唄、そんな歌詞がありましたか?」
「ある。知らないだけ」
「二番ってことですか?」
「三番まである。知らないだけ」
米子さんは村の外れに向かって歩き始め、再び歌う。
今度はそんなに大音量な歌声じゃなかった。
「♪帰るよ 帰るよ
夕焼けの終わり
暗がりの中を
口を閉じて
みなでゆくぞ
お前はいない♪」
「……なんか、怖い歌詞ですね?」
「なんでそう思った?」
「え? だって、『お前はいない』って……、みんなは帰って行くのに、その人だけはいないんでしょう?」
「……唄は、真実」
「え?」
米子さんはニヤニヤ笑う。
そしてもう一度言った。
「唄は、真実なんだよー」
……真実?
どういうこと?
米子さんが「あはっ」と、笑う。