あなたくれない
「米子さん?」
「唄は、嘘を言わない。だから、教えに来たんだー」
米子さんがそう言うと、肩をギクッと震わせた。
「!?」
どうしたんだろうと、思っていると。
「おいっ、その子から離れろ!!」
背中から怒鳴り声がした。
声のほうを振り返ると。
三軒隣に住む、原西のおじさんが立っていた。
「穂希ちゃん!! 逃げろっ!! そいつには何をされるかわかったもんじゃないぞっ!!!」
「えっ、おじさん?」
「離れろっ!! 走って帰れ!!」
米子さんを見ると、一瞬だけ見えた気がした。
悲しそうな、つらそうな表情が。
だけど、次の瞬間。
何も知らない顔になって。
「あは、あはははははっ」
と、笑い出した。
米子さんはひとり、村の外れに向かって歩いて行く。
「♪飾るよ 飾るよ
夕焼けの前で……♪」
唄の歌詞がまた変わった。
(……三番の歌詞?)
だけどもう歌声は聞こえない。