あなたくれない
沈黙がおりて。
駿翔くんは、歩き出した。
私の家の方向に向かって。
(送ってくれるつもりなのかな?)
「この間、一緒にサボった日があったじゃん」
「うん。駿翔くん、共犯になってくれたね」
ふいに笑顔になる。
(つらい時に駿翔くんがそばにいてくれて、嬉しかったなぁ)
そんなことを思っていた私の頬を、駿翔くんが指先で撫でた。
「!!」
ときめきと恥ずかしさが、頬から全身に広がっていく。
「あ、ごめん。困らせたいわけじゃなくて、笑ってくれて嬉しかっただけ」
「ううん、困ってない。困っては、ないよ」
「いや、オレが悪い。ごめん。つい……」
駿翔くんは少し俯いて、
「……あの日、穂希と一緒にいられて嬉しかった」
と、言った。
「あ、ありがとう」
思わずお礼を言うと。
駿翔くんは形の良い目を細めて、優しく笑う。