あなたくれない
「穂希、見て」
と、駿翔くんが小声で囁き、開いたページを見せてくれた。
そこには、【大橋 寛太郎殺人事件】と書かれてある。
そのすぐ下に【罪人 黛 夕子】の文字。
「また『黛』……」
「まぁ、ちっとも聞かない名字でもないよな? 黛 圭一とは全然関係のない赤の他人かもしれないし」
「そうだよね?」
私達は少しだけ黙った。
黛 圭一と黛 夕子の存在が。
頭の中でぐるぐる回っていた。
「穂希。これ見て」
と、駿翔くんが口を開く。
同じページのある箇所を駿翔くんは指差す。
【黛 夕子、のちに焼死】
「どういうこと? 焼死って……、火事か何かで死んじゃったのかな?」
私の疑問に駿翔くんも不思議そうな顔をして、
「読まないとわからないな」
と、本をめくる。
「穂希、これさ……」
と、駿翔くんの顔が強張る。
「……すぐに読める分量じゃないかも」
確かに。
ただでさえ分厚い本だけど。
【大橋 寛太郎殺人事件】の章は、かなりの枚数がありそうだった。