あなたくれない

「穂希、見て」
と、駿翔くんが小声で囁き、開いたページを見せてくれた。



そこには、【大橋 寛太郎(おおはし かんたろう)殺人事件】と書かれてある。

そのすぐ下に【罪人 黛 夕子(まゆずみ ゆうこ)】の文字。



「また『黛』……」

「まぁ、ちっとも聞かない名字でもないよな? 黛 圭一とは全然関係のない赤の他人かもしれないし」

「そうだよね?」



私達は少しだけ黙った。

黛 圭一と黛 夕子の存在が。

頭の中でぐるぐる回っていた。



「穂希。これ見て」
と、駿翔くんが口を開く。



同じページのある箇所を駿翔くんは指差す。



【黛 夕子、のちに焼死】



「どういうこと? 焼死って……、火事か何かで死んじゃったのかな?」



私の疑問に駿翔くんも不思議そうな顔をして、
「読まないとわからないな」
と、本をめくる。



「穂希、これさ……」
と、駿翔くんの顔が強張る。



「……すぐに読める分量じゃないかも」



確かに。

ただでさえ分厚い本だけど。

【大橋 寛太郎殺人事件】の章は、かなりの枚数がありそうだった。
< 64 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop