あなたくれない
「貸し出し禁止って書いてあるな」
「ここで読むしかないってことだよね」
黛 夕子の事件が気になっていることは明らかだったけれど、
「でも今日は“くれない様”のことを調べなくちゃ」
と、駿翔くんは【大橋 寛太郎殺人事件】のページを閉じた。
“くれない様”は。
一体いつから存在したんだろう?
「私が見た“くれない様”は、お着物を着ていた」
「……着物……。着物を日常的に着ていた時代の人なのかな? 穂希、どんな着物だったか覚えている?」
私は首を振る。
「薄汚れていて、模様も色も、わからなかった。黒色とか、茶色っぽく見えたもん。でも、多分元々はそんな色ではなかったんじゃないかな」
「なんで?」
「……うーん、勘だけど。でも、汚れたからそんな色になった、って感じだった」
「そっか」
駿翔くんはページをパラパラめくる。
「“くれない様”ってタブーなのかな?」
と呟いて、私を見る。
「村でこんなに浸透している存在なのに、村の歴史に載っていないなんて、おかしいよ」