あなたくれない
「載ってなさそう?」
「わかんないけど」と前置きをして、駿翔くんはもう一度目次のページを開く。
「目覚めさせた人が過去にいるかもしれないし、その事件が載っていてもおかしくないだろう?」
「確かに」
「“くれない様”が存在した人なら“くれない様”本人の、それなりのエピソードが載っているはずなのに」
「うん」
「この本には“くれない様”の章すらない」
確かにそれは不自然なことのように思えた。
筆者の黛 圭一が調べきれなかったのかな?
村の人間じゃないから、“くれない様”を知らなかったとか?
(だけど、きっとわかるはず)
夕方、暗くなる頃。
大人達が雑木林に行く姿は。
小さな頃から誰もが目にしている光景だった。
よその人間に知られないように細心の注意を払ったとしても。
あのろうそくの火を絶やさないようにしなくちゃ、“くれない様”は目覚めてしまう。