どうせ、こうなる運命
すると、男の掠れた笑い声が聞こえた。
「大丈夫だって、なんも変なことしない」
「…」
「あ、違う?その心配じゃない?」
「…」
「あーはいはい、大丈夫。ここは、一人部屋で俺専用の部屋。俺と2人きり。誰も入ってこないし、怖い男の人はいないよ??」
怖い男の人はお前だよ、なんて口が裂けても言えなかった。
呆然となるほど、血だらけになるくらいに殴ったのは、間違いなく、この男だ。
頭に焼き付けされたように。
まだ、鮮明に思い出すことができる。
別に私には関係のない赤の他人だし、むしろ、私を殴ろうとした最低なゴリラだ。でもやっぱり、怖いというよりもショックが大きい。
この男に逆らえば、私もあんな風になる…、
そんな思いが私に深く刻み込まれたようで。
警戒しながらも、私は、ゆっくりと腰を下ろして正座をする。
男は、あぐらをかいて腰を下ろす。
男は、本当に美しい美男子だった。
私と同じ囚人服に身を包んでいる。
上下暗い灰色で、もう夏辺りなのに長袖長スボンだ。通気性も見た目も悪く、身体中汗ばんで気持ち悪い時もあるが、刑務所にいる自分の服がどうとか、そんな文句は言えない。
私と同じ服を着ていると思えないくらい。
それくらいに、男の身にまとえば、灰色の囚人服もひとつの囚人スタイルのファッションのように思えた。
少しだけ失礼かもしれないけど、灰色の囚人服がよく似合っている。それ以外の男のコーデなんて、興味もないし見たこともないけど。
「…どうして、助けた」
しっかりと、言葉を考えて並べて発する。
ロボットのような声。大嫌いな、私の声。
「もっと大きな声で話せよ」
「…はい、すみません、」
こんなに静かな空間で聞こえないはずがない。弄ばれてるとはわかっていても、声量を、さっきよりも強くして声を出す。