どうせ、こうなる運命
「…あの、話に戻ってほしいんですが」
「なんの話だっけ」
「なんで助けたか、です」
あーね、と男は思い出したように頷く。
「俺の助けたお嬢様は、すみませんが口癖だったの」
「…すみません?」
「すみません、すみませんばっかで。あのゴリラに絡まれんのがめんどくさかったからだろうけど、それでも、お嬢様の強さに俺は驚いたんだよ」
でさ、とにっといたずらぽく男は笑う。
「そんな奴が絡まれてんの、面白いなって思って見てたんだけど。……殴られる瞬間、こわって言ったよな?お嬢様」
「…怖い?一言も言っていませんが」
「いやいや、はちゃめちゃに言ってたし」
男は、優しい口調になる。
「怖いのに我慢して、ちゃーんと本音を最後に漏らしてんの、めちゃくちゃかっこいいと思ってさ」
「…それで、あの人を?」
「あーそうそう、殴った。でもただ殴ったんじゃなくて、それで助けたんだからな?まあやっぱ、お嬢様が殴り殺されるのとか見たくなかったし」
へらっと笑っているけれど、どんな度胸で源で、どんな力を持てばあの大男をあんなになるまで殴ることができるのか。
私には、よくわからない。
この男は、一体何者?
「あと、ちょっと興味あってね」
「…興味?」
「この刑務所で他とは違う、お嬢様のこと」
―人と話す時は、目を見て話し聞きなさい。
今までもこれからも、精一杯、その教えを守ろうと努力をしてきた。
どんなに怒られても酷いことを言われても、涙が滲んでも、どんなに怖い状況下に置かれても、目をそらすことはなかった。
あの大男の目すらちゃんと合わしたのに。
どうしてか、この、男の目は見れない。
体が反射的に、気付いたらそらしてる。
合わせられないのは、どうして?
「そだ、名前は?お嬢様」
聞かれたくない質問に、思わず伸びた爪で手の甲を強く引っ掻く。引っ掻き傷が何本も出来ているのは、昔からの癖だからだろう。