どうせ、こうなる運命
顔や様子を怪訝な目で伺っていると、男は吹き出したように笑い出す。
「名字零堂でなにその名前、可愛すぎん?」
「…はい?」
「いい名前だね、なつ」
男は、どうして私がこの名前を嫌うのかも、聞かなかった。
「ほんといい名前」と念押しするようにまた言って、ただ、笑っている。
…あ、笑われてるよ、私。
でも、男の笑いは、そんな笑いじゃなくて。
そうだった、かもしれない。笑うって、種類みたいなものが、沢山あるものだった。
そういえば、誰かは、そんな笑いの種類を教えてくれた。
―笑うのはさ、なつ。
音としかならない潮騒に匂いなんてしないのに、潮騒の匂いが、その時私にはした。
―全部一緒にしちゃ、あかんよな。
初めてかもしれない。
いい名前、なんて言われたのは。
―へぇ、なつっていうん??
ううん、1度だけ、あの人に言われたな。
―めっちゃいい名前!!!
名前も似てるし、もう俺ら、友達やんか!!
小さい頃、聞いたこともない関西弁に、戸惑いを隠しきれなかった。それでも、私に優しい言葉を、何度もくれた人だった。
…似てる。