どうせ、こうなる運命
「じゃあ、高貴で身分の高いお嬢様が刑務所に入っちゃダメなんですか??おかしいですね、意味がわかりませんよ、ふふ」
口角を上げて。頬に力を入れて。目を細めて。鼻で息を吐くように笑って。笑顔は、120パーセントを意識して。
どういう経緯で私が刑務所に入った理由を知りたくなったのかわからないが、もうひとつの得意技である、笑顔、を披露しておいた。
小さな頃から、笑顔は大切だと、叩き込まれて教えられてきた。
返答に困ったら、相手を安心させたかったら、私は笑みを浮かべることにしている。
「……まじ、つまんな」
吐息を漏らしながらも、センター分けの前髪をかきあげて、カイは言った。
肌には傷もシミも、ニキビすらない。綺麗な、透き通った白い肌をしていた。しゅっとした顎に小顔で、どこか、眩しい。
「…つ…つまんなって…」
「俺はそーいうこと言ってるんじゃない。ナツは、明らかに俺含めるこの刑務所にいる奴らと、違うんだよ」
「あなたは何が言いたいんですか?」
違和感のない愛想笑いをして、私は、彼に背を向けて、扉に向かって足を進める。
「罪なんか、犯してないんだろ?」
その瞬間、体が、止まる。
足も腕も胴体も頭も、全てが、止まる。
―ドク、ドクドクドク…
心臓だけが、加速していく音がした。空気の流れも止まったように、揺るぎなく感じた。
……私は…罪なんて…っ…
心の声が漏れる前に口走る。
「罪を犯してなかったら、どうして刑務所に私がいるんですか?おかしいでしょ、ふふ」
私は、カイに背を向けたまま振り返らない。
カイの表情を見るのも、これから浴びてくるであろう言葉も、受け止めたくなかったから。次に来る言葉は容易に予想できる。
「よくいるんだよ、そーゆーヤツ」
「へぇ、そうなんだ??私には、何も関係もありませんけど」
どこか強引になってしまった。さようなら、と別れを告げて、私は、スタスタと部屋を出て行ってしまった。
これは逃げじゃない。
この世界で戦うひとつの道なのだ。
そう、意味もなく言い聞かせて。
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