どうせ、こうなる運命
昨日のこともすっかり忘れた私は、
また、同じ過ちを繰り返し犯してしまった。
さっと下を向いて避けて、通り過ぎようとしたところで、嫌な予感が、私の胸を襲った。
見上げれば、昨日の、大男の姿があった。
大きな腹や太い腕は変わってない。
だが、やはり男の姿は変わり果てていた。
頭や顔、体の至るところに包帯が巻かれ、頬には青紫色が滲む痛々しい痣ができている。
―男は、強盗殺人犯だったらしい。銃や刃物などは使わず、その腕で、理不尽に何人も人の命を体を心を奪った。
私は、先日にそんな人と最悪の関わりを持ってしまった。
男の目は、逃げられないように、私をじっと、捉えていた。
…ダメだ、全然、予想して、なかった。
逃げられない。一瞬一瞬、この男からは、捕まって、逃れられない。
「あっ……」
声を漏らした瞬間、
皮膚や骨が砕けたような衝撃がした。
その反動で、首が思い切り回って視界がガラリと変わる。私の体が、倒れた、らしい。
状況を理解する。
頬を、思い切りグーの手で殴られた。
「っ……」
痛い、めちゃくちゃ、痛い……、
人を殺す、拳……
口元が、歯が、頬骨が、鼻が、変形するくらいに痛い。それは大袈裟なんかじゃなくて、ほんとに、砕けたみたいな感覚がした。
自分の顔を確認したくもない。本当に、自分の顔面が成り立っているかわからないくらい、衝撃だった。
こんなに強大な力で人に殴られたのは生まれて初めてだ。
頬を抑えて、男を睨み付ける。
「昨日の小僧はどうした?」
昨日の遊び感覚とはまるで違う。男は、本気な目をしていた。本気で、私を殺そうとしている、目。ただ、瞳には、尻もちをつく私が映る。
どうやら、昨日のことで、怒りが爆発しているらしい。冷静に考えられる私だが、流石に、圧巻と恐怖を感じた。
小僧って…
あのさっきまで一緒にいた…カイのこと…?
「答えろや!!!!」
廊下にあったパイプ椅子2つを蹴ってヒステリックな声を上げる。そのヒステリックな声は、私の保つ平常ラインをぶち越えた。
「…嫌………」
やだ、やだ……
ヒステリックな声が、記憶と、重なって……
あれ、私、手が、震えて……
怖くて叫びも出来ない時、ほんとに、手って震えるんだ……