どうせ、こうなる運命


その時だった。

何か、温かいものが私の身体中を包み込む。



「え………?」



カイが、

いつの間にか、椅子から立ち上がってて。

私のことを、抱き締めて、離さないでいた。




「お嬢様、」




そっと耳打ちされて、心臓がうるさくなる。

ぎゅっと、体を抱き締められる。

男の人と、こんな距離が近いのは初めてで…




「それなら、消してあげましょうか」




その意味が、私には十分に理解できる。


カイの言葉の色には、どんな感情が入れ混じっているのだろうか。私を憎くて殺したい思いで、そんな提案をしているんじゃない。



ただ無感情に。

私の消えたいに、

応えようとしているみたいだった。



―消えたくないよ。

死ぬのは、結局怖いんだ。



それが、どうしようもない私の答えだった。


溺れて死ぬのも崖から飛び降りるのも刃物で刺されて死ぬのも、想像するのだって辛い。


死にたい、とは思わない。

でも、消えたいの。

どこか遠くへ行きたい、小さくなりたい。


今すぐにでも、そうは思ってしまう。


本当に、なんて、私は情けないのだろう。

人を殺して自覚もないままに刑務所にいて。


消えたいとか言うくせに、勇気がなく、消えることができない、バカな人間だ、。



「…私ね、死にたくないんです……」



私は、ただ強くぎゅっと抱き返した。

大きな背中は、とても、温かくて。



「でも、消えたいの………」



こんな私を、

あなたは、優しく包み込んでくれる。



「死にたくない自分を否定するのが、いちばん、辛くてたまらないんです………」



涙が止まらなくて、カイの肩の上に顔を埋めて、染みを付けてしまう。それでも、顔を上げようとはしなかった。いや、できなかった。



「なつ」



今度は、私の名前を呼ぶ。



「消えたくなったら、俺も一緒に消えるから」



カイは、不思議なひと。

カイは、意味も分からないことを言う。

でも、その言葉を聞いて、思い出した。


あの人も、同じことを言っていた……



「だからいつか、俺を殺してね」



意味もわからないのに、どうしてかまた涙が溢れる。ぐはっと溢れた涙が、また、カイの肩を濡らしてしまう。

ただ、私の小さな唸り声が、埃舞う部屋に、響き渡っていた。






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