どうせ、こうなる運命

「…ここ、」


私が指を指すと、カイの足が止まる。


そこで、気付く。

今まで、全く心配などしていなかった。

同じ部屋の囚人がいたら、どうなるだろう。


私を話題に、いつもコソコソ言ってる女の囚人達。


カイと私が一緒に入ってきたら、いや、お姫様抱っこなんかされながら入ってきたら…想像も出来ないほど、地獄絵図となるだろう。



「…っやっぱりここで降ろし―」

「やだ」



キッパリと断られる。

心内で祈るしかなかった。

部屋の扉を開ける。


運の良いことに、部屋には誰もいなかった。

しかも、まだ布団が片付けられていない。


そうか、今はまだ労働時間だから、人はいない…、



「よかった…着いた…終わった……、」



カイは、ゆっくりと私の体を布団の上に乗せる。足が地面に着いた、体が地面に着いた、というとてつもない安心感に浸る。



「大丈夫?まだ痛む?」



起き上がって、私は座る体制を作る。



「口角を動かしたら、痛むだけ」



私の顔には、小さな絆創膏が何枚か張られている。血も、収まったようだ。口角を上げたりする時に、少し口元が痛くなるだけ。



「寝てていいけど」

「いえ、人と話すんで」

「教育されてんねぇ」



ふぅー、と息を吐くと共に、カイは私に背を向ける。



「ねぇ、なつ」

「…はい?」

「もう、大丈夫?怖くない?」



カイの心配そうな目の色を見てわかった。

カイは、私が体触られそうになっていたその瞬間を見ていた。そういえば、丁度、その時にカイは、助けに来てくれていた気がする。


…心配、してくれてたのか。


いや、それならお姫様抱っこをするという行動の矛盾をどうしても感じるが。



「怖くないです、大丈夫」



ふっと笑ってみせると、カイは安心したように、「よかった」、と私に笑いかける。



「優しいですね」



ニヤニヤ笑ったり、だろ?とわざと私の言動を弄んで来るものかと思っていた。だが、カイは何故か、驚くように、目を見開いていた。

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