どうせ、こうなる運命


…信じてみる。

あなたのことを、信じてみる。

言い換えれば、カイが私を騙す時には、私は平気に騙されることになる。

でも、それでいい。


過去に、私はフユを信じた。

フユは、私を騙さなかった。


それはフユとの話だ。


…カイは、これからどうなんだろう。


じっとカイのことを見つめて、そう、信じてみると決心した。カイにあった警戒心が、どこか緩む。



「…さっき、ありがとうございました」

「ん?」

「私の笑顔、好きって言ってくれて」



完全にミスった。安堵感からか、変な、絶対に言わなくてよかったことが口から漏れた。



「俺が?そんなこと言ったっけ?」

「は?ぶち殺していいですかね」

「嘘だって。なに、嬉しかったの??」



カイは、布団の上にだらしなく腰を下ろす。

ああ、カイは帰ろうとしていたのに。

なんだか、迷惑なことをしてしまった。



「…帰っても全然―」

「ううん、帰らない。で?嬉しかった?」

「あ、…はい」



数十秒前の自分を叱りたい。最悪だ、嬉しかったとか、カイに弄ばれるに決まってるのに。



「…笑顔が、誰よりも下手だった。だから、練習してたんです」



無視することもなく興味なんて無さそうな顔をするのでもなく、ちゃんと私を見て、相づちを打って優しく聞いてくれる。


それはこの世界にとって、当然なのかもしれない。難しいことでもないかもしれない。


だけど、私にとっては、優しいことだった。

だから、言いたくなる。

人と話すのは苦手な、本当は口下手なのに。人に話したくなるなんて、とても、不思議。



―歯が汚いから、口を閉じて笑いなさい。

―目を細めて、息を意識して笑いなさい。

―笑うときはお上品に口を手で覆いなさい。



この世界には、何でもやり方がある。

笑顔の仕方、話し方、考え方、行動の仕方。

一人一人に、自分に合った正解がある。


上手な笑顔は、1発本番で出せるものではない。だから、私にとって仕方を教わる練習は必須だった。


…それが、どんなに縛られていても。


はい、はい、と頷いてその仕方を聞いていたが、仕方を教われる度に苦しくなっていた。


どうして仕方なんか教わるの?どうして私は他より上手に笑顔が作れないの?あの子が笑うと、どうして場が和むのだろう??


私は、誰よりも笑顔が下手くそだった。

作り笑いなのがバレバレになる。

作ろうとしても、自然な笑い方ができない。


だから私は、毎日毎日、鏡の前での笑顔の練習をひとりで、一生懸命取り組んでいた。


頬が痛くなっても、何故こんなことをするのかわからなくなって苦しんでも、人と比べて辛くなっても、。

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