どうせ、こうなる運命
「ねぇ、なつ」
いつの間にか、もう夕方なようで。
この部屋では、正確な時間がわからない。3時間近く遅れた、壊れた時計があるだけだ。だから、ほぼ、何時なのかわからない。
時計を直してほしいと誰も思わない。
時間なんか、どうだっていいから。
空を見ていれば、大体わかるものだから。それでいいから。
ガラスを境に、窓からは、夕陽色に光が差している。そろそろ、部屋に、誰かが帰ってくるかもしれない。
カイも、そろそろ帰り時だろうな。
その時、私の背中に、何かの感覚がする。
え、
「動くな」
声も出さずただ驚く私に、カイの表情は、暗くて無表情だった。あの狼のような鋭い目つきで、私は、捉えられていた。
♧
背中に何を当てられている…?手…?それとも…銃とか…?いや、そんなはずが…
わからない。見えない見たくない。動けない。動いたら殺される殺気さえ感じた。
私、今から、どうされるの…?
さっきまで普通に話して笑って、唯一、信頼を託そうとしたカイに、私は、この瞬間、怯えている。
…なんて、不思議なことなんだろう。
唐突なことに一変すれば、相手のイメージも、話した言葉も、顔も、笑みの浮かべ方も、全部が、嘘のようになる。
「なーんて、嘘なんだけど、」
カイの目は、いつもの丸っこい瞳に戻って、私を安心させるように笑みを作る。
カイは、私の背中に、触れたまま。
よくわからない冗談にポカンと口を開ける。