どうせ、こうなる運命
公にしない、裏の組織だから。
深くは知らないが、それだけは知っている。
勿論、囚人では俺だけしか知らない。鍵やロック暗号がかかる、厳重に守られた部屋だ。
「そうそう、確認したかったんだけど、」
「…何でしょうか」
「今回の指令で使っている偽名は、矢浪蓮、という名前でよかったかしら???」
指令された任務には、偽名を使う。
身元を隠すため、本名を出したりはしない。
…彼女は、俺の本名を知っているのだろうか。
組織に何か報告でもするのためか、彼女はパソコンを立ち上げ、俺の返答を待っている。
俺は頷いて、平然と、表情も声のトーンも変わらずに続ける。
「蓮、という名前を使っています」
「れん………」
しばらくキーボードに何かを打ち込み、最終的には、カチャ、とマウスを押す音がした。
矢浪蓮、という偽名を使う計画でいた。
だが、一方的な何かが自分の口を滑らせ、
勝手に、違った名前を口走った。
…どうして、そんなことを??ほんとにどうして、海なんて名前を名乗った??
…俺の本名は、矢浪海だ。
俺は本名を、名乗ってしまったことなる。
俺としたことが、完全に過ちを犯したのだ。
まさかこの俺が、本名を名乗ってしまったなんて。そんなバカなこと、彼女にも、そして勿論、組織にも、絶対に絶対に、…言えない。
演技に入るとその役になりきってしまって、少々、頭が回らなくなるからだろうか。