どうせ、こうなる運命


長い黒髪、白い肌、目は切れ目で、どこか真顔で見つめられると、冷たい印象を受ける。


それでも、彼女は努力したんだろう。

顔や髪、体や、笑顔などのあらゆる表情など、見ただけで彼女なりの努力が読み取れる。


…お嬢様は、作り笑顔が下手だ。


俺は下手くそだとは言ったが、あれは俺の本心が漏れたと同然だった。本当に下手で、ただ、口角と目を意識してるだけみたいで。


流石に、その時は笑いが漏れた。

…こんなお嬢様なのに、下手くそなんかよ。


まあ、今はお嬢様のこんな状態で、綺麗な作り笑いができる方がおかしいかもしれない。



―ふふ…



笑った顔が、鮮明に頭に過る。

俺は初めて、本当の、お嬢様の笑顔を見た。



すみません、とどうでもよさそうに言ってた時も、

あんな怖い男を前にでも、平気で横を通り過ぎようとしていた時も、

あの大男に胸ぐらを掴まれた時も、

投げ飛ばされた時も、

体を、触られそうになっていても、

人に笑われようと、バカにされようと、


お嬢様はいつだって、人に目を合わせて表情も変えず、声も漏らさず、負けん気だった。


それでも、そんなお嬢様は俺の前で、本当の笑顔で、笑えていた。

俺は嘘つきで、本当の俺じゃなかったけど、俺は、彼女を笑わせることができていた。

俺は全部を知っていたから、その時、頭が真っ白になった。



―カイには人を、殴ってほしくない。



あれを言われて、ずっと、考えていた。


あれは、ただ自分がどうでもよくて自暴自棄になって言ったのか、…本当に、俺が人を殴るところを見たくなかった??


自分を守ってくれた勇者に、普通、そんなこと言うもんなの?と思った。


あんな人、初めて見た。

バグってんだよな、頭が。

まあ、無理もないけど。


…でも。


気付いたら、勝手に、手が、足が、体が、

彼女を、助けようとしていた。

気付いたら、俺は彼女を抱き締めて、

消えたいなら消そうかって、変なこと……


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