どうせ、こうなる運命
「―何を考えてるのかしら?ぼーっとして」
「…いや、」
我に返って、目で彼女を捉える。
「しょうもない、ことです」
「ええ?なーんだろ??」
年上なはずだが俺よりも背の低い彼女は、ぎゅっと肩を胸に寄せて、上目遣いをしてみせる。
「前髪のセンターパートも似合ってる、」
感謝の気持ちで、一応、頭を下げる。
俺の見張り兼、命令司令部の女性。
光で髪に天使の輪が映る髪は、見ただけでも、美髪の持ち主なのがわかる。
きっと、こんなに暗くて狭苦しい部屋にいるよりも、外の世界に行った方が、彼女の美しさを狙う男は沢山いるだろうに。
「煙草も、演技で吸っているの?」
「……いえ、俺の喫煙は元々です」
「あら、そうなの。煙草を吸う男の子なのかは、匂いでわかるのよ?」
ふふ、と彼女は笑う。
彼女とは、何度も関わったことはある。
だけど、一体、何者なのかも知らなかった。
ただ、俺を刑務所に移動させるなどと、権力の高い組織の1人なのだろう。
彼女は成人はしているはずだが、警察でもないからか、それとも計画のためか、未成年の俺の喫煙には、何とも口を出さなかった。
「…ねぇ、」
彼女は、俺の頬を包み込むように両手で触れる。その手は、嘘みたいに、とても冷たい。
真っ赤なリップを塗った、艶のあるローズ色の唇。俺の頬に、唇を近付ける。
「―なんとも思わないの?」
彼女は、俺の頬に口づけをした。
そんな事実などわかってはいたが、心内にも表情にも、何の感情も現れなかった。
口づけ、ということは、好意があってのことか。それとも、ただの遊びであるか。ただ、その疑問を抱いて、それも薄く考えていた。
「…ごめんね、試しただけよ」
…試したかった?何を?
そうとは思ったが、無駄であることを悟った俺は、結局、口を開くこともしなかった。