どうせ、こうなる運命



「さあ本題ね。新しい指令は―……」



驚くことではあったが、変わらず表情を保ち、その指令を、縦に頷いて受け入れる。

表情、声のトーン、言葉、笑顔の仕方…、

自分の頭の中でプログラムを建てて実行する。


どう演じれば、俺のことを更に信用してもらえるか。どうすれば、あの人に気に入ってもらえる、顔と、そして性格になれるか。


…全ては、計画的に。


あの大男が奇跡的にいてくれてよかった。あれは完全に予測していなかったことだが、ターゲットとの深い親交の、キッカケ、にも繋がった。


あの巨体の男は、社会の、弱い弱いクズでしかなかったんだろうな。すぐ、倒れたから。

まあ、俺の鍛えられた腕で立ち上がれた者はいないくらいだ。弱くて、仕方がないけど。


…まああの男がクズなら、

嘘をつく俺は、クズ以下だろうか。

自覚はしているとか、ほんと、バカかよ。



「あなたは、ターゲットから信頼を高めるのよ。矢浪くんなら、大丈夫よね?設定は変わらず、最後まで、演じきるのよ」

「はい」

「ええと、設定は、どうだったかしら??」



彼女は、どこかわざとらしく首を傾げる。



「詐欺師。……指令通り、金のために女を騙してきた、詐欺師を演じきること、です」

「あらあら、そんなに嫌そうな顔して」

「……別にそういう役は慣れてるんで」



短髪もセンター分けの前髪にしたのも、そんな役を演じるためである。流石に、髪に派手なカラーをかけるのは嫌すぎて断ったけど。



「わかってると思うけど、…話さないでね??」

「わかっています」

「警察にはスパイが少数入って動かしてる。…でも、他の警察は何も知らない。絶対に、絶対に、組織のことを話しちゃだめ」

「はい」

「もしあなたがこの組織のことを言ったら…、あたし達、この裏組織、全てが終わるの。逮捕されちゃうのよ??」

「ええ、わかっています」



俺をなんだと思っているんだろう。俺は矢浪家で育った。…話すはずがないだろう??
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