どうせ、こうなる運命
「とにかく、その指令がやり終わったら、また連絡するわね。何か聞きたいことは??」
「……この任務の末、俺は、警察に逮捕される運命なんでしょうか」
「そんなこと、ないんじゃない??」
彼女は、俺に笑みを見せる。
どうしてだ?
一瞬、彼女の顔が暗くなって空気が淀んだ。
その一瞬も、俺は見逃さなかった。
…彼女も俺と同じだな。
隠すのがうまくて、周りから嘘をつき繕うことが素晴らしいと歓喜されてきた、そんな人間なのだろう。
「別に、どんな運命でも俺は、捨て駒になってでもいいと思ってるんで」
聞かれてもないのに、そう、勝手に口走ってしまった。俺の中の何かが、彼女に心を開いたのだろうか。
彼女は、俺の言葉に聞こえないフリをした。
「じゃーね、矢浪くん」
そっと俺に鍵を渡した彼女は、どこか寂しそうな笑みを浮かべる。
「そういえばあなた、ターゲットの女の子にお姫様抱っこしてなかった??あれ何??」
「……ど、…どうして、それ」
「私はあなたの見張り役だからねぇ?いつも、監視カメラで見てるの」
彼女はどこか嬉しそうにふふっと笑う。
なんだか、…耳が熱くなる。恥ずかしい、という感情が沸き上がりつつあるらしい。
「…足が」
「足?」
「麻痺して、動かないらしかったので、仕方なく」
「わかってるわよ??そーんなこと」
「…もっと、俺への信用度を高めてもらうためにやっただけです。あの人、育ってきた環境もあるんでしょうが、…警戒心が強いので」
でも、と俺は彼女の目を見て続ける。
「もう、堕ちたようですが」
「…堕ちた?」
「ええ。結構、単純な女でしたよ。すぐに俺に信頼を託しているように見えたんで」
「ほんと、あなたって……」
はぁーあ、と彼女はどこか呆れ顔になる。
俺の着ている服の襟部分には、居場所のわかるGPS発信器が取り付けられている。
所詮、俺はただのロボット同然。
見張られて、好き勝手に行動はできない。
ただ、決められたことをやり遂げるだけ。
…それなら全部、失敗も、そして感情もないロボットにやらせればいいのに。
「この世界は腐っているわね、矢浪くん」
「…どうでしょう」
俺は彼女に背を向けて、慣れない歩き方で歩く。歩き方の仕草までも変えた。1歩一歩と重心を掛け、少し大股めに。
「どうせ、ああなる運命なのに」
俺は振り返りもせずに、ふっと、意味深なことを言って笑ってみせた。
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