どうせ、こうなる運命


どのくらい時間が経ったのか、わからない。

呆然と、倒れた男の姿を見下ろす。


静かに、ただ静かに、刻一刻と時は過ぎていく。その時間は、何もない無だった。

耳が機能してないからか、それとも、周りに静寂が続いているからかはわからないが、人の息すらも、聞こえない。

誰もいない、真っ白な世界みたいだった。



―はっと我に返って、ゆっくりと周りを見渡す。



周囲の人も、私と同じように呆然としていた。大きく口の空いた女、ヨダレが漏れる男、大柄な男の仲間らしい金髪の髭男…、

一人一人見ている目の先は、私と同じだ。



こんな巨体の男を、この、人が…?

そう、誰しも思っていたんだろう。

私と同じ囚人服を着た、若い男だった。



男は、生意気なセンター分けをかきあげる。

子犬のように丸くつぶらな瞳、真っ白で透き通った綺麗な肌、高く筋のある鼻、シュッとした顎、スラッとした高身長……、

目を細くして、男は笑みを作る。




「こんにちは、お嬢様」




嘘だろ……いや嘘じゃない………


ふぅー、と男は大きく息を吐く。

私の顔を一度目で捉えて、私の手首を掴む。

温かくも冷たくもない、どこか、生ぬるい温度のように思えた。よく、わからない温度。



「行こ?」



強い力を込められ、命の危機を感じた私は、男の言葉に頷く他なかった。







腕を掴まれたまま、その男と一緒に早歩きでその場から逃げる。

走ると刑務官に怪しまれるためだ。男は何も言わず、私も何も言わず、ただただ、歩き続けて、時間が過ぎていくように感じた。

しばらく歩いて後ろをチラリと見やると、刑務官が気付いて大男を担いでいるのが見えた。一応、あの怪我で生きているらしい。

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