どうせ、こうなる運命
どのくらい時間が経ったのか、わからない。
呆然と、倒れた男の姿を見下ろす。
静かに、ただ静かに、刻一刻と時は過ぎていく。その時間は、何もない無だった。
耳が機能してないからか、それとも、周りに静寂が続いているからかはわからないが、人の息すらも、聞こえない。
誰もいない、真っ白な世界みたいだった。
―はっと我に返って、ゆっくりと周りを見渡す。
周囲の人も、私と同じように呆然としていた。大きく口の空いた女、ヨダレが漏れる男、大柄な男の仲間らしい金髪の髭男…、
一人一人見ている目の先は、私と同じだ。
こんな巨体の男を、この、人が…?
そう、誰しも思っていたんだろう。
私と同じ囚人服を着た、若い男だった。
男は、生意気なセンター分けをかきあげる。
子犬のように丸くつぶらな瞳、真っ白で透き通った綺麗な肌、高く筋のある鼻、シュッとした顎、スラッとした高身長……、
目を細くして、男は笑みを作る。
「こんにちは、お嬢様」
嘘だろ……いや嘘じゃない………
ふぅー、と男は大きく息を吐く。
私の顔を一度目で捉えて、私の手首を掴む。
温かくも冷たくもない、どこか、生ぬるい温度のように思えた。よく、わからない温度。
「行こ?」
強い力を込められ、命の危機を感じた私は、男の言葉に頷く他なかった。
♧
腕を掴まれたまま、その男と一緒に早歩きでその場から逃げる。
走ると刑務官に怪しまれるためだ。男は何も言わず、私も何も言わず、ただただ、歩き続けて、時間が過ぎていくように感じた。
しばらく歩いて後ろをチラリと見やると、刑務官が気付いて大男を担いでいるのが見えた。一応、あの怪我で生きているらしい。