片桐くんは空気が読めない

「推しはお前らが多少痩せて見た目がましになったところで、なんとも思わないと思うが。それよりもそのバカっぽい喋り方を直した方がいいんじゃないか？　聞いてるだけで、頭が痛くなってくる」

「は、はぁ？」

美奈と沙羅は、突然会話に乱入してきた片桐くんに不満をあらわにした。

昼休みの教室。

私たちはご飯を済ませた後、そのまま美奈の席の周りで駄弁っているところだった。

美奈は今度、推している韓国アイドルの握手会に行くという話題で沙羅と盛り上がっていた。

そのところ、美奈の隣の席の片桐くんが冒頭の問題発言をしたというわけだ。

「片桐キモ！　聞き耳立ててんじゃねぇよ」

「聞きたくて聞いてるわけないだろう。声がでかいんだよ声が」

片桐くんはため息混じりにそう言うと、読んでいた本を閉じて教室を出て行ってしまった。　　

「あんな奴と隣なんて美奈も大変だな」

沙羅は同情の眼差しで美奈のことを見る。

「本当だよ。早く席替えしたーい」

私はそんな二人のやりとりを内心ヒヤヒヤして聞いていた。

「ん、あやの、大丈夫？」

「へ、」

美奈に顔を覗き込まれて、ビクッと肩が震える。

「なんか体調悪そうじゃない？」

「あー、たしかに？」

私は被りを振った。

「ちょっと低気圧で、頭が痛くて……」

絶対バレるわけにはいかなかった。

クラスの変人、片桐駿と私、二人の間の関係を。