片桐くんは空気が読めない


「あやの、おはっよ〜。デートはどうだったかな?」

朝、私の机の周りに美奈と沙羅が来た。

いつもは私がどちらかの机に行って話に混ざる側なので、それは珍しいことだった。

「楽しかったよ」

「へぇ、いいじゃん。写真は?」

私は平然を装って言った。

「二人に言ってなかったけど、彼氏オタクで、コラボカフェに行ったから、その時の写真はあるけどこーゆう手元の感じのしか」

私が写真を見せると、「やっぱりね」と言って、美奈は微笑んだ。

「片桐とはどんな話したの?」

「どんな……え?」

私は頭が真っ白になった。

すると、美奈は笑って言った。

「私の彼氏、中野のファミレスで働いてるんだよね。昨日、あやのを見かけたって聞いて。ほら、私、彼にあやのの写真見せたことあったからさ」

私が何も言えないのをいいことに、美奈は嬉々として続けた。

「連れのことを片桐くんって呼んでたっていうからもしかしたらって思って、彼にクラス写真の片桐を見せたら、ビンゴ」

「どうして教えてくれなかったの?」

沙羅は同調して続けた。

「ま、無理もないよね、あの片桐が彼氏なんて」

「え、なに、なに、美奈、沙羅、何の話してんの」

「拓真! 実はね」

美奈や沙羅と親しいクラスの男子が、話の和に加わってくる。

そのとき、私はクラス中の視線が自分に集まってるのを感じた。

「っ、」

やめて。

みないで。

そんな憐れむような目で私のことを……

見ないで!

教室から出ると、ドンっと人とぶつかる。

「ったぁ、……あ、宮瀬どこにって、おい!」

片桐くんの苛立った声を背中に、私は走った。

教室から遠くへ。少しでも遠くへ。
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