片桐くんは空気が読めない
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中学までの私は、地味で目立たなかった。
長くも短くもない肩までの黒髪に、野暮ったい眼鏡。
友達は二人ほど。
まるで自分の鏡写しかのような彼女たちと、教室の隅でコミックや昨晩見たアニメの話をささやかにする日々。
専ら、男子と話すのは授業中のペアワークの時だけで、それも、課題が終わると、その男子は私を置いて違うグループの会話に混ざっていってしまう。
特段いじめられたわけではない。
今思えば運が良かったのかもしれない。
でも、存在しているのに存在していないような無色透明な自分が情けなくて、情けなくて。
変わろうと思った。
存在しているのに意識されない酸素みたいな私から、人間としての宮瀬あやのに。
髪は必ず美容院で切って、毎朝欠かさずニュースの芸能コーナーをチェック。
月に一回はファッション誌を読んで、暇な時間はsnsの巡回。
眼鏡は封印して、コンタクトを装着するの。
すると、あら不思議、人間らしくなった私が、鏡の中から見下ろしている。
変われると思った。
背伸びした友達と付き合っていれば、いつかはそれが本当になるって。
嘘は、実行すれば真実になって、真実になればそれはもはや嘘じゃないって。
でも、嘘は嘘でしかなくて。
嘘をつくたびに本当の私には、何の価値もないと思い知らされて。
こんなはずじゃなかった。
私の中の私が言う。
私は走って、走って人気のない階段まで来ると、誰もいないことを確かめて段差に腰をかけた。
スカートの上に手を下り重ね、顔を伏せる。
最悪だ。
定期や財布が入ったカバンを教室においてきてしまった。
帰るのなら、荷物を回収しなければいけないけれど……あぁ、なんか全部めんどくさいや。
見栄も嘘も体裁も。
目を閉じた。
真っ暗闇の世界に、私は溺れていった。