片桐くんは空気が読めない
波はゆっくりと押し寄せて、次に目が覚めた時には、瞼の裏にオレンジ色の光が差した。

「あれ、私……今、何時だ?」

寝ぼけ眼にひとりごちると、「やっと起きたか」と隣から声がして、私は思わず固まった。

「だ、だれ?」

声のする方を振り向くと、

色白の肌に、ひまわりのような色素の薄い瞳が咲いた、まるで絵画から抜け出してきたかのような独特の雰囲気を持った男の子がこちらを見つめていた。

こんな綺麗な子、私は知らなかった。

「はぁ?」

男の子の顔が険しくなって、彼はパタンと呼んでいた本を閉じた。

「お前の目はお飾りか? たかだか髪を切って、メガネを外しただけでそんな変わりがないだろう。それなのにどいつもこいつもみんな態度を変えやがって……」

男はぶつぶつと不満を言っている。

「もしかして、片桐くん?」

見た目は変わっても嫌味な口調は彼そのものだった。

「他に誰がいるんだよ」

片桐くんはやれやれとため息をついた。

「これ、お前の荷物。今日はもう帰れば?」

時計を見ると今は12時半で、お昼休み真っ只中だ。

「どうして」

「あ?」

「どうして、イメチェン……?」

「それは、特に意味なんてねぇよ。ただ何となくで」

片桐くんは目を合わさずに言った。それは最も彼らしい理由で。

「そっか。ねぇ、私のこと聞いた?」

「お前のなんだよ」

「だから、その、あの」

「俺がお前の彼氏だってやつ?」

片桐くんは意地の悪い笑みを浮かべていた。
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