片桐くんは空気が読めない
「お前、俺のこと好きだったの?」

「あれは嘘で、」

「じゃあ、教室に戻ってそう言えばいいだろう。俺らはただの幼馴染ですって。これで問題は全て解決だ。よかった、よかった」

片桐くんは、てきとうにあしらうと、スッと立ち上がって教室の方に向かって歩き始めた。

「そんな簡単に言わないでよ。女子の間には色々あるんだから」

私は荷物を持って彼の後を追う。

「まぁ、嘘つき女には、ゴシップ好きの性悪女が友達でちょうどいいんじゃないか?」

片桐くんがニヤニヤして言った。


「……じゃあ、嘘つき女の幼馴染が偏屈男でも大したことないってことか。これまで必死に隠してきて損した」

「誰が偏屈男だ」

私の笑い声が廊下に響く。

あぁ、見た目が変わっても彼は彼だ。

片桐くんと話していると、これまで悩んでいたことが馬鹿みたいに思えてくる。

私の幼馴染は変人で頑固で偏屈。

私は地味でパッとしないモブ。

でも私にとって片桐くんは、片桐くんだから、片桐くんで、それは彼にとっての私にも言えることなのだろうか。

そうだといいな。


「ねぇ、サランって、少し私に似てない?」

「あぁ、お前を美少女にしたらあんな感じだろうな」

「馬鹿」

私は片桐くんの肩を小突いた。

なんだか全部吹っ切れた。



片桐くんは空気が読めない【完】
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