片桐くんは空気が読めない



「今日はありがとう」

「別に。俺はただ飯の上、コラボグッズもゲットできてラッキーって感じ。ちゃんと推しも引けたし」

「黒髪ロングの子だっけ? 変わった趣味だよね」

 私たちは最寄駅から家までの道を肩を並べて歩いていた。

 遠くでカラスが鳴き、日が西に沈んでいく。

「俺のサランへの冒涜か?」

「いや、普通に一番地味というか控えめな感じがしたから。私だったら、ブロンドボブの活発そうな子がいいなって」

「そっちのが趣味悪いだろ」

「そう?」

「あぁ」

私たちの間に沈黙が落ちる。

それからしばらく黙ったまま道を歩いて、不意に沈黙を破ったのは片桐くんの方だった。

「なぁ、今日、どうして誘ってくれたんだ?」

「それは」

私は顔を上げる。

メガネと長い前髪が邪魔で、彼の表情は読み取れなかった。

でも、美奈と沙羅についた嘘を突き通すためなんて言ったら、片桐くんに軽蔑される気がして、私は「何となく」と誤魔化すしかなかった。 
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