七夕はあなたに会いたい
「このベンチ、まだあるんだ! ここで座って何時間も話したことあるよね」
「そうだったね」

 あれは春、つきあって間もない頃だった。
 なんだか話しても話しても話が尽きなくて、一緒にいるのがただ楽しくて。

 なのに今日は、楽しくない。
 きっと、今日が最後だってわかってるからだ。

 私はうつむく。
 やたらと長くのびる影が、なんだかうらめしい。

「……元気ないね」
 彼が気遣うように言う。
 私は返事ができなかった。

「ちょっと座ろうか」
 思い出のベンチに、彼と一緒に腰掛ける。

 ここは彼に告白された場所でもあった。
 別れるのもここになるなんて、なんて皮肉なんだろう。

 ……ダメだ。すっかり、別れる方向で覚悟を決めてしまっている。彼からはまだなにも言われていないのに。

「……私に言いたいこと、あるんじゃない?」
 彼はぎくっと顔を強張らせた。

 ああ、やっぱり。
 私はうつむいた。

「覚悟はできてるから」
 彼は返事をしなかった。
 二人で黙ってフェンス越しの川を眺める。
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