七夕はあなたに会いたい
 行く川の流れは絶えずして、と頭に浮かぶ。
 こういうときって、どうしてどうでもいいことが頭に浮かぶんだろう。
 そうやって思考の隙間を埋めて、ショックを和らげようとする自衛なのだろうか。

 やがて、彼は言った。
「この前、地元に帰ってるかってきかれたじゃん。あのときは否定したけど、本当は帰ってきてたんだ」
「やっぱり」
 私は頷く。

「転職活動しててさ。やっとこっちで仕事が決まった。給料も上がる」
「……そう。おめでとう」

 新しい彼女のためだろうか。
 私は彼を見られなくて、ただじっと川面を眺める。
 穏やかな流れに夕日が注ぎ、金色に輝いていた。

 毎年のように七夕の時期は梅雨だ。今年もきっと雨だと思ったのに、今日はこのまま星空が見えそうだ。私はふられそうだというのに、のんきにデートする織姫と彦星がうらめしい。

「それで……」
 彼は言い淀む。

 言いづらいのか。
 なら、私から言ってあげようか。
 ふられるのと、形だけでも自分がふるの、どちらが傷が浅くて済むだろう。

「別れたいんでしょ。いいよ」
 言った直後、ずきん、と胸が激しく痛んだ。

「は!?」
 彼が声を上げた。
「どうしてそうなるんだよ!」
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