ヒミツのバレンタインデー前夜を君と
後編
私は佐野心愛、小学4年生だよ。
クラブ活動はチアリーディング部に所属してるんだ。
ダンスは今のところあんまり得意じゃないけど、お友達のいのりちゃんと放課後練習して頑張っているよ。
私、隣の席の亮介くんのことがちょっと気にはなっているんだ〜。好きって気持ちかどうかは分かんない。
だけど、もっとお話して仲良くはしたいなと思っていたところで、亮介くんから突然お願い事をされちゃった。
亮介くんのバレンタインデーのためのチョコ作りを手伝うことになった私。
すごく良いと思う!
男の子がバレンタイデーチョコを手作りしてプレゼントするだなんておかしいって言ったクラスメートもいたけれど、私はぜんぜんそんなことないと思うんだ。
好きな人に思いをこめた手作りチョコとか、誰が作ったって全然いいじゃない?
素敵だよね。
だけど、ちょっぴり胸が痛んだの。
亮介くんは、バレンタインデーのチョコを誰にあげるつもりなんだろうって考えたら、胸の奥がチクチクしてる。
この気持ちってもしかしてやっぱり……恋なのかな?
亮介くんが私じゃない誰か女の子のためにチョコを作るんだって思うと、やっぱり切なさが襲ってくるんだ。
♡♡♡
チョコ作りは亮介くんのおうちでやることになってるから、私は家にいったん帰ってお母さんにお友達の家に遊びに行くと伝えた。
お母さんが誰と? と聞いてきたからドキッとしたけど「クラスメートだよ」と言うとそれ以上はつっこまれることはなくってホッとした。
亮介くんと話が弾んで、学校の教室にいる時よりたくさん話せたから楽しくって。
最初こそはどきどきし過ぎで緊張したのに、今は私、亮介くんともっともっとお喋りしたくなってる。
亮介くんのおうちはでっかくて新しいおうちだった。
気後れしそうになったけれど、亮介くんがにっこり笑って「どうぞ」って言うと、私はえいっとおうちの玄関に足を踏み入れた。
「お邪魔します」
「佐野、緊張してる?」
「あっ、うん。だって初めてのおうちだから……」
「そうだよな。ああ、二人だけで誰も居ないだろうから。そんな緊張しないでリラックスしてくれよ」
亮介くんがそういった時、奥の方から声がした。
「あら、亮ちゃん。おかえり」
現れたのは亮介くんのおばあちゃんらしき人だった。
「ばあちゃん! じいちゃんとこ行くんじゃなかったの?」
「もう病院にヘルパーさんと行って帰って来たんだよ。おじいさんは私の顔を見るだけじゃ退屈なんだってさ。早く帰れだなんて失礼しちゃうわよ」
「それはじいちゃんがばあちゃんのこと心配してんだよ」
「あたしのことより、おじいさんのほうが大変だっていうのにまったくあの人は……」
病院……?
亮介くんのおじいちゃんは入院してるのかな?
「佐野、ごめん。二人だけだと思ったんだけど」
「えっ? ああ、えっと。私は大丈夫だよ。亮介くんのおばあさん、初めまして、佐野心愛です。亮介くんとは同じクラスで席が隣り同士です」
「あらあら、初めまして。亮介の祖母です。まあ、亮ちゃんがこんなに可愛らしいお友達を連れて来るだなんて」
「……あのさ、ばあちゃん。俺、佐野にバレンタインデーのチョコ作りを頼んだんだ」
「バレンタインデーのチョコ作り? 亮ちゃんがチョコを?」
亮介くんの顔は照れくさそうに赤く染まっていた。
「ばあちゃんが手作りチョコをじいちゃんにあげたいって言ってたからだよ」
「ああ、私とおじいさんのためにかい?」
「ええっ、亮介くんって、誰かにあげるためじゃなかったんだ」
私はすっごーくホッとしていた。
亮介くんは手作りチョコをクラスの女子にプレゼントするのかと思った。
♡♡♡
何を作るかは亮介くんとおばあさんと相談して。
材料は色んなものがあったからそれを三人で見ながら、私が何度も作ったことがあるチョコチップクッキーにしたんだ。
形はハートがたのクッキー。
粉は本格的なものではなく、万能なホットケーキミックスを使ったんだ。チョコチップは出来上がった生地に好きなだけのっけた。
火は使わずにトースターで簡単に焼くことが出来るので、子供の私や亮介くんやお菓子作りが初心者なおばあさんでも安心だ。
――亮介くんとおばあさんと私の三人でチョコ作り。
想像してなかったぐらい、とっても楽しかった。
あとで亮介くんに聞いたことなんだけれど、亮介くんのおじいさんが転倒して足を骨折して入院してしまってから、おばあさんはすっかり元気が無くなってしまったんだって。
それから少しだけ、痴呆症という病気が出てきて、得意だったお料理が一人で作ることが出来なくなってきたんだって。
亮介くんがちょっとさびしそうな顔をしたのは、きっとおじいちゃんとおばあちゃんのことを思っていたからだ。
美味しい焼き上がりの香りがキッチン中に広がる。
香ばしい匂いは、大成功だって知らせてる。
昔、失敗した時は焦げ焦げの匂いがすごかったもん。
美味しそうないい香りに、わくわくしてくる。
「すっげえ、ちゃんと焼けてる」
「まあまあ、美味しそうなクッキーねえ」
「生焼けじゃないかどうかはクッキー生地を竹串で刺して見て。何も竹串に付かなかったら焼き上がっている証拠です」
出来上がったハートがたのチョコチップクッキーを可愛くラッピングしたら、立派な出来栄えになった。
♡♡♡
私は、亮介くんに送ってもらい、家に帰る。
亮介くんのバレンタインデーのチョコ作りは大成功だった。
「なあ、佐野。今日はありがとうな」
「うん。こちらこそありがとう! 亮介くんからバレンタインデーのチョコもらっちゃった」
「いや、俺のっていうより、作ったの三人でだし。大量に作っちまったから」
「他の人にもあげたら? 高坂くんとかチョコ欲しがっていたじゃない?」
「やだよ。勘違いされまうだろ。俺が高坂大好きとか思われても困る」
「ええー。友チョコ、男の子同士であげても楽しそうなのに」
「あいつの手作りチョコの交換? イヤだよ。好きな女子にあげるほうが作り甲斐があるってもんだろ」
「……好きな女子……。亮介くん、いるんだ」
「えっ――? ……ああ、まあ、そうだな。いるよ」
私は失恋確定だ!
自分の気持ちに気づいたばかりなのに、亮介くんへの恋心は速攻で破れて粉々になった。
「やるよ、佐野に。自分で一人で作ってみるから交換しよ」
「ええっ? 私とバレンタインデーのチョコ交換?」
「今度こそ、内緒な。ばあちゃんにもバレないようにしねえと。母さんとかに知られると勝手に盛り上がるからすっげえ恥ずかしいんだよな」
ちょと、ちょっと待って。
遠回しに亮介くんが私のことを好きだって言ってるみたいに聞こえる。
ああ、そんなの都合の良い解釈で、勘違いだろうけれど。
「ねえ、亮介くん? 私とバレンタインデーのチョコ交換なんかして大丈夫なの? 好きな女子とするんじゃないの?」
「――えっ!? ……ごめん。ちゃんと言ってなかったな。……俺、佐野のことが好きだ」
「ちょっ、ちょっと、亮介くん! えっと私。心の準備が出来てなかった」
「じゃあ、改めてバレンタインデーに佐野に告白する。返事はすぐでもホワイトデーでもいいぞ?」
「ホワイトデー、一緒にまたお菓子作ろうか? ……良かったら亮介くんのおばあさんも一緒に」
亮介くんは暗くなってきた夕方の空を見上げ、うーんと唸ってる。
私もつられて夜空を見上げたら、星がいくつか輝いてまたたいて、綺麗だった。
……私、――すごくどきどきしてる。
「ばあちゃん、めちゃくちゃ喜ぶと思うんだー。だけど俺……佐野と二人っきりでもお菓子作ったり、どっか行ったり宿題やったりしたいかも。……だめ?」
「……っ!! あ、あの……。……いいよ。じゃあ、亮介くん! あのっ、あのね、二人でもおばあさんと三人でも、お菓子作ったりしようね」
「おっ、おう。良かった。サンキュー。佐野とたくさん一緒に過ごしてたくさん話しもしたいよ、俺」
ひ、ひゃあ――――っ!!
私は亮介くんの甘いセリフに、恥ずかしくって顔が熱くなってきた。
「佐野? どうしたの? そんなに顔、真っ赤になってさ」
「ま、真っ赤になるに決まってんじゃない! 亮介くんってけっこうなんかなんか王子様みたいなんだね」
「なんだよそれー。ハハハッ」
私は亮介くんと歩く帰り道、嬉しくて恥ずかしくて楽しくて、ずっとこうして二人でいたかった。
まだ帰りたくないな。
おうちに着くのがもったいなくって、ゆっくり歩いていたかった。
♡おしまい♡
クラブ活動はチアリーディング部に所属してるんだ。
ダンスは今のところあんまり得意じゃないけど、お友達のいのりちゃんと放課後練習して頑張っているよ。
私、隣の席の亮介くんのことがちょっと気にはなっているんだ〜。好きって気持ちかどうかは分かんない。
だけど、もっとお話して仲良くはしたいなと思っていたところで、亮介くんから突然お願い事をされちゃった。
亮介くんのバレンタインデーのためのチョコ作りを手伝うことになった私。
すごく良いと思う!
男の子がバレンタイデーチョコを手作りしてプレゼントするだなんておかしいって言ったクラスメートもいたけれど、私はぜんぜんそんなことないと思うんだ。
好きな人に思いをこめた手作りチョコとか、誰が作ったって全然いいじゃない?
素敵だよね。
だけど、ちょっぴり胸が痛んだの。
亮介くんは、バレンタインデーのチョコを誰にあげるつもりなんだろうって考えたら、胸の奥がチクチクしてる。
この気持ちってもしかしてやっぱり……恋なのかな?
亮介くんが私じゃない誰か女の子のためにチョコを作るんだって思うと、やっぱり切なさが襲ってくるんだ。
♡♡♡
チョコ作りは亮介くんのおうちでやることになってるから、私は家にいったん帰ってお母さんにお友達の家に遊びに行くと伝えた。
お母さんが誰と? と聞いてきたからドキッとしたけど「クラスメートだよ」と言うとそれ以上はつっこまれることはなくってホッとした。
亮介くんと話が弾んで、学校の教室にいる時よりたくさん話せたから楽しくって。
最初こそはどきどきし過ぎで緊張したのに、今は私、亮介くんともっともっとお喋りしたくなってる。
亮介くんのおうちはでっかくて新しいおうちだった。
気後れしそうになったけれど、亮介くんがにっこり笑って「どうぞ」って言うと、私はえいっとおうちの玄関に足を踏み入れた。
「お邪魔します」
「佐野、緊張してる?」
「あっ、うん。だって初めてのおうちだから……」
「そうだよな。ああ、二人だけで誰も居ないだろうから。そんな緊張しないでリラックスしてくれよ」
亮介くんがそういった時、奥の方から声がした。
「あら、亮ちゃん。おかえり」
現れたのは亮介くんのおばあちゃんらしき人だった。
「ばあちゃん! じいちゃんとこ行くんじゃなかったの?」
「もう病院にヘルパーさんと行って帰って来たんだよ。おじいさんは私の顔を見るだけじゃ退屈なんだってさ。早く帰れだなんて失礼しちゃうわよ」
「それはじいちゃんがばあちゃんのこと心配してんだよ」
「あたしのことより、おじいさんのほうが大変だっていうのにまったくあの人は……」
病院……?
亮介くんのおじいちゃんは入院してるのかな?
「佐野、ごめん。二人だけだと思ったんだけど」
「えっ? ああ、えっと。私は大丈夫だよ。亮介くんのおばあさん、初めまして、佐野心愛です。亮介くんとは同じクラスで席が隣り同士です」
「あらあら、初めまして。亮介の祖母です。まあ、亮ちゃんがこんなに可愛らしいお友達を連れて来るだなんて」
「……あのさ、ばあちゃん。俺、佐野にバレンタインデーのチョコ作りを頼んだんだ」
「バレンタインデーのチョコ作り? 亮ちゃんがチョコを?」
亮介くんの顔は照れくさそうに赤く染まっていた。
「ばあちゃんが手作りチョコをじいちゃんにあげたいって言ってたからだよ」
「ああ、私とおじいさんのためにかい?」
「ええっ、亮介くんって、誰かにあげるためじゃなかったんだ」
私はすっごーくホッとしていた。
亮介くんは手作りチョコをクラスの女子にプレゼントするのかと思った。
♡♡♡
何を作るかは亮介くんとおばあさんと相談して。
材料は色んなものがあったからそれを三人で見ながら、私が何度も作ったことがあるチョコチップクッキーにしたんだ。
形はハートがたのクッキー。
粉は本格的なものではなく、万能なホットケーキミックスを使ったんだ。チョコチップは出来上がった生地に好きなだけのっけた。
火は使わずにトースターで簡単に焼くことが出来るので、子供の私や亮介くんやお菓子作りが初心者なおばあさんでも安心だ。
――亮介くんとおばあさんと私の三人でチョコ作り。
想像してなかったぐらい、とっても楽しかった。
あとで亮介くんに聞いたことなんだけれど、亮介くんのおじいさんが転倒して足を骨折して入院してしまってから、おばあさんはすっかり元気が無くなってしまったんだって。
それから少しだけ、痴呆症という病気が出てきて、得意だったお料理が一人で作ることが出来なくなってきたんだって。
亮介くんがちょっとさびしそうな顔をしたのは、きっとおじいちゃんとおばあちゃんのことを思っていたからだ。
美味しい焼き上がりの香りがキッチン中に広がる。
香ばしい匂いは、大成功だって知らせてる。
昔、失敗した時は焦げ焦げの匂いがすごかったもん。
美味しそうないい香りに、わくわくしてくる。
「すっげえ、ちゃんと焼けてる」
「まあまあ、美味しそうなクッキーねえ」
「生焼けじゃないかどうかはクッキー生地を竹串で刺して見て。何も竹串に付かなかったら焼き上がっている証拠です」
出来上がったハートがたのチョコチップクッキーを可愛くラッピングしたら、立派な出来栄えになった。
♡♡♡
私は、亮介くんに送ってもらい、家に帰る。
亮介くんのバレンタインデーのチョコ作りは大成功だった。
「なあ、佐野。今日はありがとうな」
「うん。こちらこそありがとう! 亮介くんからバレンタインデーのチョコもらっちゃった」
「いや、俺のっていうより、作ったの三人でだし。大量に作っちまったから」
「他の人にもあげたら? 高坂くんとかチョコ欲しがっていたじゃない?」
「やだよ。勘違いされまうだろ。俺が高坂大好きとか思われても困る」
「ええー。友チョコ、男の子同士であげても楽しそうなのに」
「あいつの手作りチョコの交換? イヤだよ。好きな女子にあげるほうが作り甲斐があるってもんだろ」
「……好きな女子……。亮介くん、いるんだ」
「えっ――? ……ああ、まあ、そうだな。いるよ」
私は失恋確定だ!
自分の気持ちに気づいたばかりなのに、亮介くんへの恋心は速攻で破れて粉々になった。
「やるよ、佐野に。自分で一人で作ってみるから交換しよ」
「ええっ? 私とバレンタインデーのチョコ交換?」
「今度こそ、内緒な。ばあちゃんにもバレないようにしねえと。母さんとかに知られると勝手に盛り上がるからすっげえ恥ずかしいんだよな」
ちょと、ちょっと待って。
遠回しに亮介くんが私のことを好きだって言ってるみたいに聞こえる。
ああ、そんなの都合の良い解釈で、勘違いだろうけれど。
「ねえ、亮介くん? 私とバレンタインデーのチョコ交換なんかして大丈夫なの? 好きな女子とするんじゃないの?」
「――えっ!? ……ごめん。ちゃんと言ってなかったな。……俺、佐野のことが好きだ」
「ちょっ、ちょっと、亮介くん! えっと私。心の準備が出来てなかった」
「じゃあ、改めてバレンタインデーに佐野に告白する。返事はすぐでもホワイトデーでもいいぞ?」
「ホワイトデー、一緒にまたお菓子作ろうか? ……良かったら亮介くんのおばあさんも一緒に」
亮介くんは暗くなってきた夕方の空を見上げ、うーんと唸ってる。
私もつられて夜空を見上げたら、星がいくつか輝いてまたたいて、綺麗だった。
……私、――すごくどきどきしてる。
「ばあちゃん、めちゃくちゃ喜ぶと思うんだー。だけど俺……佐野と二人っきりでもお菓子作ったり、どっか行ったり宿題やったりしたいかも。……だめ?」
「……っ!! あ、あの……。……いいよ。じゃあ、亮介くん! あのっ、あのね、二人でもおばあさんと三人でも、お菓子作ったりしようね」
「おっ、おう。良かった。サンキュー。佐野とたくさん一緒に過ごしてたくさん話しもしたいよ、俺」
ひ、ひゃあ――――っ!!
私は亮介くんの甘いセリフに、恥ずかしくって顔が熱くなってきた。
「佐野? どうしたの? そんなに顔、真っ赤になってさ」
「ま、真っ赤になるに決まってんじゃない! 亮介くんってけっこうなんかなんか王子様みたいなんだね」
「なんだよそれー。ハハハッ」
私は亮介くんと歩く帰り道、嬉しくて恥ずかしくて楽しくて、ずっとこうして二人でいたかった。
まだ帰りたくないな。
おうちに着くのがもったいなくって、ゆっくり歩いていたかった。
♡おしまい♡