追放聖女は最強の救世主〜隣国王太子からの溺愛が止まりません〜
ギュッと右手を握ったフランソワーズは顔を上げてから笑みを浮かべた。
ステファンも優しい笑みを返す。
フランソワーズはステファンからのエスコートを受けて馬車から降りた。
繋いだ手から伝わる熱。幸せに満たされていた。

(こんな幸せな日々が、ずっと続いたらいいのに……)

フランソワーズがそう思っていた時だった。
門番に止められている一人の青年の姿があった。
争っているからか、ブラウンの髪が激しく揺れている。
どこかで見たことがあるようなシルエットに、フランソワーズは首を傾げた。

顔が露わになる前に、険しい顔をしたステファンが珍しくフランソワーズの腕を引いた。
そのまま抱きしめられるようにして視界を塞がれる。
フランソワーズがどうしたのかとステファンに問いかけようとした瞬間に、信じられない言葉が耳に届く。


「──フランソワーズを返せッ!」

「……っ!」


フランソワーズを呼ぶ荒々しい声は聞き覚えのあるものだ。

(セドリック殿下がどうしてこんなところに?)

フェーブル王国にセドリックがいることが理解できなかった。

フランソワーズは自らを落ち着かせながら、ステファンに視線を送る。
彼はもう隠しきれないと思ったのだろう。
ゆっくりとフランソワーズを抱いていた腕を離す。
やはり目の前にいるのは間違いなくセドリックだった。
フランソワーズは唖然としつつ、セドリックを見つめていた。
紫色の瞳と目が合った瞬間、彼の唇がニタリと歪んだ。
< 170 / 204 >

この作品をシェア

pagetop