追放聖女は最強の救世主〜隣国王太子からの溺愛が止まりません〜
フランソワーズは深呼吸してから、瞼を閉じる。
周りの声が聞こえないほどに集中しながら気配を辿っていく。
毎日感じていた覚えがある感覚は禍々しいもので、フランソワーズを拒絶しているような気がした。


「ステファン殿下、城の中を歩いてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、もちろんだ」


フランソワーズは導かれるように気配を辿っていく。
長い廊下を抜けて、更に階段を上がる。
端へと移動して渡り廊下を抜けて古い離れた塔へ。
フランソワーズの後にはステファンたちが続いていた。

(この部屋じゃない……違うわ。この先)

そして一番、端の部屋の扉に手を当てる。
フランソワーズが案内もしていないのに部屋を探し出したことに皆が驚いていた。
扉の取っ手に手を掛けたフランソワーズが部屋の中に入ると眩しい光が見えた。
フランソワーズの前にあるのは、赤黒い表紙に金色の文字が擦れて見えなくなっている薄汚れた古い本だ。
その古い本はフランソワーズの指示通りに光に照らされていた。
フランソワーズが部屋に入った瞬間、ゾワリと鳥肌が立つような寒気を感じた。

(宝玉の中にいる悪魔よりは弱い気がする……呪いが得意な類いなのかしら)

フランソワーズは一歩足を踏み出す。
本は窓もないのにパラパラとページが勝手に捲れていく。
まるでフランソワーズに近づくなと牽制しているようだ。

(このレベルだったら、わたくしでも問題ないわ。少し時間はかかるかもしれないけれど、この本に憑いている悪魔を祓えるはず……)

フランソワーズがそのことを伝えようと後ろを振り向いた時だった。


「ステファン殿下、わたくしは今から……っ」
 
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