追放聖女は最強の救世主〜隣国王太子からの溺愛が止まりません〜
(ステファンside)


* * *


「……フランソワーズ」


静かな部屋にステファンの呟く声が響いていた。
彼女は疲れもあり、眠ってしまったようだ。
フランソワーズの金色の美しい髪を、ひと束だけ持ち上げてそっと唇を寄せる。
フランソワーズに出会ったのは十年も前のこと。
シュバリタイア王国で開かれたパーティー会場だった。
真っ赤な上品なドレスを着て、背筋がピンと伸びて大人びていた。
彼女を初めて見た時のことは今でも鮮明に思い出せる。

(美しい……)

この世界に、こんなにも美しい少女がいるのかと思うと驚きだった。
オリーヴがよく持ち歩いていた人形のように整った顔立ち。
まったく動かない表情が尚更、そう見せたのかもしれない。
まだ幼いのにもかかわらず完璧に振る舞うフランソワーズは会場でも注目の的だった。
父に『お前も婚約者が欲しくなったのか?』と言われたのを必死で誤魔化すほどに、生まれて初めて異性が気になった瞬間だった。

隣国の王太子、セドリックの婚約者なのだと知ったのはすぐのこと。
その時のショックはかなり大きなもので、今で思えばそれがステファンの初恋だったのかもしれない。
フランソワーズに一目惚をしたのだ。

しかし他国の王太子の婚約者に軽々しく声をかけるわけにもいかない。
ステファンはフランソワーズへの気持ちに強制的に蓋をしてなかったことにした。
そうするしかなかったのだ。
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